前頭側頭葉変性症(FTLD)は、前頭・側頭葉の神経細胞脱落により人格変化や失語症状を呈する疾患群の総称である。FTLDについては、原因蛋白としてのTDP-43とFUS、および原因遺伝子としてのGRNとC9ORF72の発見によりその研究は近年飛躍的に進歩し、細胞モデルおよび動物モデルの作製も進んでいる。しかし、細胞モデルではヒトの病理と良く似た像が再現されているが未だにヒトの病理像を十分に反映した動物モデルは作製できていない。本研究は、過剰発現系(トランスジェニック)ではなく、ゲノム編集技術と遺伝子ノックインの手法を用いて、人工的な表現型をできるだけ排除した新規モデルマウスを作製し、FTLD患者脳と同様の病変を再現できる次世代型神経変性疾患モデルを構築することを目的とした。 TDP-43ノックインマウスに関しては、マウスTDP-43ゲノムDNAをヒト型TDP-43に置き換えたノックインマウスを作製し、複数のラインが得られたが、ヒト型TDP-43のタンパク発現が認められなかった。そこで、ヒトTDP-43 cDNAをノックインしたマウスを再作製し、1系統のマウスが得られたが、exon 3より上流が欠損した不完全なノックインであることが判明した。crRNAの設計位置およびドナーDNAを再考し、ノックインマウスを作製し直したところ、完全長のcDNAがノックインされたマウスが8系統得られた。これらのマウスに関してはヒト型TDP-43タンパクの発現が確認された。 C9orf72ノックインマウスに関してはヒトC9ORF72遺伝子と相同なマウス3110043O21Rik遺伝子に(GGGGCC)nのヘキサヌクレオチドリピートを挿入し、C9ORF72遺伝子変異モデルマウスの作製をおこなった。3回のインジェクションを実施し、合計285匹の出生個体が得られたが、目的遺伝子陽性マウスは1匹も得られなかった。
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