本研究の目的は、ドーパミンシナプス結合の変化が推定されるMHC-I欠損型マウスが、注意欠如・多動性障害(ADHD)の新たな動物モデルになり得るか否かについて検索することである。 これまでの研究によって、MHC-I欠損型マウスが著明なADHD様行動を示すことを明らかにしたが、MHCの遺伝子座は自閉症スペクトラム障害や統合失調症との関連性においても注目されている。そこで、本年度は、MHC-I欠損型動物が示す社会的行動試験とプレパルス抑制試験における特徴について調べた。(1)社会的行動試験について:異なるケージで飼育した2匹のマウスの接触時間を指標として測定したところ、社会的相互作用と社会的認知のいずれにおいても、野生型マウスとMHC-I欠損型マウスの間に差は認められなかった。したがって、MHC-I欠損型マウスは自閉症様行動を示さないことが示唆された。(2)プレパルス抑制試験について:110dBと120dBの音を聞かせ、聴覚性驚愕反射量を測定したところ、 野生型マウスに比べ、MHC-I欠損マウスの反射量は大きい値を示したが、有意には至らなかった。また、74-110dB、 78-110dB、74-120dB、78-120dBの組み合わせで音を聞かせ、プレパルス抑制の値を測定したところ、野生型マウスとMHC-I欠損型マウスの間に差は認められなかった。したがって、MHC-I欠損型マウスは統合失症様行動を示さないことが示唆された。
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