研究実績の概要 |
年齢と性別をマッチさせた自閉スペクトラム症群(ASD)と健常群(HC)において、刺激に対する痛覚閾値を定量化し群間比較を行った。刺激には、知覚・痛覚定量分析装置(Pain Vision;ニプロ)と温冷痛覚刺激装置(PTHWAY: Medoc)を用いた。また、痛みを感じるだけの十分な刺激量(痛み耐性閾値)を同定し、痛み耐性閾値における痛みの主観的評価を測定した。この際、visual analogue scale(VAS)により痛みの強さ、McGill Pain Questionnaire(MPQ)により痛みの質の感覚的側面と感情的側面の両方を定量した。その結果、痛みを感知する閾値と、痛み耐性閾値において、2群間における有意差を認めなかった(電気: p = 0.044, 冷: p = 0.011, 温: p = 0.042)。また、電気刺激と冷刺激に対する痛みの感情的側面におる感覚は、ASD群において、HC群よりも有意に低かった(electrical: p = 0.0071, cold: p = 0.042)。以上より、ASDでは、痛みの身体的感覚に障害がないが 、痛みを認知する過程の障害の可能性が示唆された。また、今回用いた痛みの感覚の測定方法は、ASDの感覚障害の同定において、有益である可能性が示唆された。以上は報告済みである(yasuda et.al, Ann Gen Psychiatry .2016.15:8.)。本年度は、ASDとの鑑別が問題となっている統合失調症において、疼痛刺激によるデータを収集し、ASD群と性別と年齢をマッチさせて比較検討した。その結果、統合失調症群ではよりVASによる痛み(p=0.008)と不快感(p=0.003)を感じにくかった。今後、データを蓄積し、疼痛検査の診断マーカーとしての有益性について明らかにしていく必要性が示唆された。
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