研究実績の概要 |
[1] kirrel3欠損マウスの脳の組織学的・生化学的・分子生物学的解析:kirrel3欠損マウスの行動異常の原因と考えられる神経回路のうち、kirrel3蛋白の高発現の認められる、副嗅球、海馬、小脳のシナプス部の解析をシナプス蛋白(VGLUT1, VGLU2, PSD-95, NMDAR1, Neuroligin2等)に対する抗体を用いて組織学的(免疫染色法)、及び生化学的(ウェスタンブロット法)に検討した。その結果、成獣の副嗅球の糸球体シナプス部、及び小脳のピンソーシナプス部において異常をみいだしており、現在定量化中である。また、成獣で異常の認められた小脳のシナプス形成期(生後14, 21日齢)においても異常を見いだしており、現在個体数を増やして解析中である。 [2] kirrel3ホモ欠損マウスの行動学的解析:自閉症スペクトラム障害のモデルマウスでよく観察される常同行動の1つであるstereotype groomingの増加やrota-rodでの運動学習亢進が、kirrel3ホモ欠損マウスにおいて認められるかを検討した。その結果、stereotype groomingの増加は認められなかった(野生型 n=6, ホモ欠損マウス n=6)が、rota-rodでの運動学習亢進が認められた(野生型 n=32, ホモ欠損マウス n=30)。また、精神遅滞に関与している可能性を検索するため、学習、記憶に関して受動的回避テスト(野生型 n=7, ホモ欠損マウス n=11)やモリス水迷路テスト(野生型 n=16, ホモ欠損マウス n=18)を行ったが、有意な差は認められなかった。したがって、恐怖記憶や空間学習・記憶は正常である可能性が示唆された。また、成獣のコミュニケーション機能に異常がないかを、超音波発声により検討し異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。 これらの結果より、kirrel3ホモ欠損マウスが精神遅滞を伴わない、ADHDを伴う治療抵抗型ASDのモデルマウスとなる可能性が高いと考えられる。また、その病態に小脳のシナプス部の異常が関与している可能性が示唆された。
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