研究課題/領域番号 |
15K09876
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
水野 雅文 東邦大学, 医学部, 教授 (80245589)
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研究分担者 |
辻野 尚久 東邦大学, 医学部, 講師 (00459778)
根本 隆洋 東邦大学, 医学部, 准教授 (20296693)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精神病発症危険状態 / 精神病発症超ハイリスク / 移行例・非移行例 / ARMS / At-risk mental state / Ultra-high risk |
研究実績の概要 |
精神病発症危険状態(At-risk mental state; ARMS)にある思春期・青年期の患者の病態変化を前方視的に追跡し,臨床的・機能的転帰を明らかにすること,ならびに,精神病の顕在発症に至る移行例と発症に至らない非移行例とを,より早期段階において判別するのに有用な症候を,ベースラインで施行した各種検査結果から見出すことを目指す。 対象者の選択に際しては,統合失調症の前駆期症状スクリーニング(PRIME-Screen日本語版)(小林ら、2010)を実施し,その結果,精神病の発症危険状態にある可能性が高いと判断されたものに対して,サイコーシス・リスクシンドロームに対する構造化面接(Structured Interview for Prodromal Syndromes/Scale of Prodromal Symptoms [SIPS/SOPS])日本語版(Kobayashi et al. 2006, 2008)を施行し,Criteria of Psychosis-risk Syndromes (COPS)の基準に基づいてARMSであるか否かを診断している。 前年度までの研究に引き続き,今年度は新たに9名の参加者をインクルージョンした。このうち,全員がCOPS基準B:「微弱な陽性症状」に当てはまった。参加者のうち、登録後にドロップアウトした者は3名であった。また、今日までに6か月後のフォローアップ時点を迎えた者は5名であり,精神病への移行が確認されたのは1名であった。この移行例に関しては,ベースラインの神経心理学検査からは,ソーシャルスキルの未熟さ,コーピングスキルの低さ,情報の統合能力の低さが見出された。これまでの移行例のデータと合わせて検証すると、ARMS患者における社会性の未熟さ,認知的な情報処理の偏りは,精神病への移行のリスク要因になり得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本施設においてはARMS症例を見出すためのスクリーニングや診断のための評価体制は整っているものの,ここ数年,ARMS症例の受診自体は減少傾向にあり,年間約10症例前後で推移している。その理由としては,診断の精度が高まってきたことや,地域のクリニック等においてフォローされている症例が増えていることなどが考えられる。しかしながら, 昨年度の8名に引き続き,本年度も新たに9例の参加者をインクルージョンし,そのうちドロップアウトが3例のみというのは,まずまずの成績と言えよう。 当初の対象症例目標は50例であったが,ARMS患者は呈する症状の非均一性や転帰の多様性が問題となっており,今日のARMS研究においては,対象者をベースラインの診断クライテリアにおいて「微弱な陽性症状」を呈している者に限るというのが世界的な潮流でもある。その意味では,今年度にインクルージョンされた症例は全て「微弱な陽性症状」のクリアテリアに合致しており,統計的検定において重要なサンプルの均一性は高まったと言えよう。次年度も引き続きこのペースで実施していけば,本研究の主要目的である顕在発症移行例と非移行例の比較について,統計的に有意差を見出すに足りる症例数を確保することが出来る見込みである。 一方で,若年層のARMS患者の場合,追跡途中で脱落例が生じることは避けられないことであり,1年後の追跡調査の取得については困難が予想される。これらの症例数の不足を補うために,昨年度までに本施設において実施したパイロット研究のARMS症例の蓄積データを参考にしつつ,定性的な分析を加えるなどして初期の目標を達成できるように検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本検査の対象となる被験者は平均年齢約20歳(範囲15~34歳)の若者であり,さまざまな精神不調に悩んでいる場合が多い。これに対して検査バッテリーは比較的大きく,検査に時間を要することから,平素の生活よりは忍耐と集中が求められる。また課題も,どちらかといえば被験者にとって苦手なものが多いはずであるから,ときとしていったん同意しても実施に際して必ずしも積極的であるとは限らない。 次年度中に1年後評価を迎える症例については,出来る限りもれなくデータを取得できるよう,研究の実施に関するマネジメント体制を整えていく。また,今後も研究参加者に対しては,思春期心性などに十分配慮したうえで,研究および検査の意義を丁寧に説明し,結果についてもできるだけ速やかに本人にフィードバックするなどして協力を促していく。 対象症例の調査機関である東邦大学医療センター大森病院には心療内科、小児科が併設されており、自他覚症状の乏しい比較的軽症の初診患者の受診に際してはより精神神経科よりもスティグマの低い心療内科を受診する傾向がある。そこで当該診療科医師ならびに受診相談受付に対して、ARMS症例の特徴を記載した説明書を配布し、精神神経科受診を勧めていただくよう手配済である。 本研究の最終年度となる次年度においては,最低25症例の臨床的・社会的転帰を確認し,精神疾患への移行例と非移行例の早期段階おける症候の違いについて,量的および質的に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定外支出のためのその他の予算額のわりには、想定外の支出が少なかったため、余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度となる次年度は,フォローアップ検査,データ解析,および英語論文執筆のための人件費にさらなる支出を予定している。またこれまでの研究成果の一部をまとめて研究協力者とともに国際学会において発表し、さらなる研究課題について検討する。
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