本研究では、正常圧水頭症での脳の微細構造の変化を、先進的な拡散MRIの撮影及び解析技術によって明らかにすることを目的としている。前年度までの成果として、シャント手術後の患者脳で皮質脊髄路の拡散MRI指標に術前と変化がある(正常者の数値に近づく)ことを示し、かつ、それが、仮説(神経軸索の病的な過伸展の解除)と矛盾しないことをコンピュータ・シミュレーションによって確認した。より具体的には、患者の皮質脊髄路では線維方向のバラつきが減少している(方向がより揃っている)こと、手術後にこれが健常者の値に近づくこと、更に、神経線維の密度の推定値は健常者よりも低く、こちらは術前術後で変化しないことを示した。つまり、手術によって変化する指標と、変化しない指標があることが明らかになった。当該年度での実績として、皮質脊髄路以外の脳領域、また、拡散MRI以外の定量的MRI(magnetization transfer、以下MT法)の解析を追加して、症状や治療予後との関連を探るべく臨床・画像データの蓄積を行い、一部の結果について学会発表を行った。MT法の定量指標は、拡散MRIによる指標と傾向が一致する領域と一致しない領域があり、両手法は相補的な情報をもたらす可能性がある。また、前年度までに明らかになっている拡散MRIでの神経線維密度等の推定の問題点について、引き続き検証中である。現在までに判明している範囲では、この問題点を解決するためには撮影方法自体を更に改善する必要があり、本研究期間に収集しえたデータとは別な研究計画が必要である。
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