研究課題/領域番号 |
15K09981
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
松田 博史 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 脳病態統合イメージングセンター, センター長 (90173848)
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研究分担者 |
宿里 充穗 昭和薬科大学, 薬学部, 助教 (20525571)
加藤 孝一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 脳病態統合イメージングセンター, 室長 (50382198)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PET / ミエリン |
研究実績の概要 |
本研究では、ミエリン特異的PETプローブとして既に報告されている11C-MeDASが多発性硬化症等の脱髄疾患の診断に有用であるかについてモデル動物を用いた検討を進めている。はじめに、11C-MeDASの自施設での標識合成に関して、PET撮像実験に用いるのに十分な品質を得るために、合成条件の最適化を行った。具体的には、市販のジアミノスチベン塩酸塩を中和したものを前駆体に用い、メチルトリフレート法により11C-MeDASを合成した。11C-MeDASはスチルベン骨格を有する分子であるため、放射分解を受けやすいことが予想され、実際、精製後の目的物に高極性の分解物が見られたが、製剤溶液にアスコルビン酸を添加剤として加えることにより改善され、95%以上の放射化学純度で11C-MeDASを得ることが可能となった。次に、多発性硬化症モデル動物として実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)ラットを用いてPETおよびex vivo オートラジオグラフィ実験を実施した。ラット脳内での11C-MeDASの集積は、脳梁と延髄、橋、中脳で高く、ミエリン特異性を反映した様な分布を示したものの、コントロール群と比べてEAE群での集積低下といった変化は認めず、むしろ増加傾向を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度(平成27年度)では、実験計画に基づき11C-MeDASの安定的供給を可能にし、EAEラットを用いたPET撮像実験までを完了した。このPET撮像実験による評価の結果、脳および脊髄への11C-MeDAS集積はコントロール群と比べて変化しないかむしろ増加傾向にあることがわかった。当初に期待していた結果とは異なり、11C-MeDAS は脱髄病変部を検出することができなかったが、本実験の成果はEAEラットにおける11C-MeDAS集積に関する新たな知見であると言える。今後は、病理学的変化との比較を行うことで、11C-MeDASの集積と病態との相関関係を明らかにする予定である。一方で、脱髄病変を検出できなかった理由のひとつに、11C-MeDASの放射化学的安定性が十分でなかった可能性もある。そのため、安定性に優れた新たなミエリンイメージング用PETプローブの設計を行い、順次、合成と評価を進める予定である。このように、想定外の結果が得られたために、当初の計画を修正する必要はあるものの、新たな知見を踏まえて研究を遂行できており、概ね順調に進展していると評価できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果を踏まえて、下記の2項目に関して研究を進める予定である。 ①EAEラットにおける11C-MeDAS集積の基礎的検討 EAEラットにおける病理学的変化との比較を行うことで、11C-MeDAS集積変化との関係を明らかにする。さらに、11C-MeDAS集積のミエリン特異性を確認する目的で、in vitro条件下での結合実験を実施する。また、本実験で用いたモデル動物では脱髄病変が生じる領域が小さいために、11C-MeDASのPET撮像実験では検出できなかった可能性もあるため、別の脱髄疾患モデル動物への適用についても検討する。 ②放射化学的安定性に優れた新たなPETプローブの開発 一般的に、スチルベン骨格中のオレフィン部位は、放射分解で想定される酸化反応に対する活性が高いことが知られている。11C-MeDASの合成時にも化学構造を特定してはいないが高極性の分解物が検出されていることから、酸化物が生成している可能性が高いと考えられる。そこで、芳香族環内にオレフィンを組み込んだ分子を新たに設計し、その合成、標識合成、およびトレーサーとしての評価を行う予定である。
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