研究課題/領域番号 |
15K09983
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安井 博宣 北海道大学, アイソトープ総合センター, 准教授 (10570228)
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研究分担者 |
山盛 徹 北海道大学, 獣医学研究科, 准教授 (00512675)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Inhibitor of DNA binding / 放射線 / 腫瘍 / 転写調節因子 / p53 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年がん遺伝子として注目されている転写調節因子Id (Inhibitor of DNA binding)タンパク質の放射線をはじめとする治療に対する細胞応答に果たす役割と、がん組織における挙動を調べることによって、Idタンパク質の治療標的分子としての可能性を明らかにするものである。28年度は、特異的Id-1の発現抑制を行うことで起こった放射線感受性の上昇のメカニズムを明らかにすることを目的に検討を行い、下記の成果を得た。 (1)Id-1ノックダウンによる放射線感受性の上昇の程度は、A549細胞株、HT29細胞株、HeLa細胞株の順で大きく、p53ステータスの関連が示唆された。(2)アポトーシスについてはこの放射線感受性変化に関係性が認められなかった。(3)X線照射によって起こるG2チェックポイントにおける細胞周期停止に対してId-1ノックダウンは影響を与えなかった。(4)DNA修復タンパク質であるγH2AXおよび53BP1を指標としたがん細胞のDNA修復能に対してもId-1ノックダウンは影響を与えなかった。 また固形腫瘍からの組織切片上でのId-1の発現を免疫染色にて検討したところ、がん組織よりも血管近傍に顕著に発現しており、腫瘍内では血管内皮細胞に発現するId-1が腫瘍環境に影響を与えている可能性が示唆された。 以上の結果から、Id-1の放射線感受性における役割はp53依存性であることが明らかとなり、細胞周期チェックポイントやDNA損傷から起こるアポトーシス誘導によるものではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に記載した3つの目的(①腫瘍微小環境を模した環境におけるIdタンパク質の発現変化、②移植腫瘍内でのId-1タンパク質の局在と由来臓器における発現の違い、③放射線応答におけるIdタンパク質の役割)のうち、③のメカニズムの検討に時間を要している。ただ、②の局在に関するデータも得られつつあり、複数種のがん細胞株の検討からも由来臓器における役割の違いを明らかにできつつある。
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今後の研究の推進方策 |
29年度では前年度に引き続き、Id-1ノックダウンによる放射線感受性上昇の原因をアポトーシス以外の細胞死形式(オートファジーや細胞老化)に着目して明らかにする。また、移植腫瘍モデルにおいて、Id-1依存性のX線誘発細胞死の治療効果への影響を明らかにするため、特異的阻害剤を用いたX線との併用療法を試験する。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度から所属が変わったことにより、年度の前半に計画していた実験の一部が行えず、執行予定額の残余分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
Id-1ノックダウンによる放射線感受性上昇のメカニズムを明らかにするため、引き続き細胞実験に使用する培地、試薬類、また実験動物購入費として使用する。
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