研究課題/領域番号 |
15K09984
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松浦 妙子 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90590266)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 陽子線治療 / 生物モデル / 移動標的 |
研究実績の概要 |
近年世界的に普及が進むスポットスキャニング陽子線治療法は、標的への線量集中性を特長とした、原理的に優れた治療法である。本学で臨床に使われている動体追跡技術は、肺、肝臓、膵臓、前立腺などの陽子線照射中に動きのある部位に対して、腫瘍の動きをリアルタイムでモニタリングしながら、腫瘍が決まった位置にある時のみ照射を進めることで、線量集中性を担保する方法である。この方法により、従来と比較して物理的な線量精度は大幅に向上したが、一方、組織の生物的な応答については、線エネルギー付与、線量率、細胞腫に依らず、一定値として扱われてきた。 本研究では、線エネルギー付与依存性および線量率依存性を含めた生物モデルを構築し、それを用いて、治療期間にわたる生物等価線量を評価するための生物線量計算システムを作ること、また、それを用いて生物学的なAdaptive therapyを実現し、治療計画時に期待した治療効果を患者に提供することを、研究の最終目標としている。 平成27年度は、北海道大学病院の陽子線照射ノズルに対する線量平均線エネルギー付与分布の計算機能を作成し、既存のモンテカルロ計算システムへの実装を大方完了させた。また、文献調査を進め、陽子線の線エネルギー付与依存性と線量率依存性を同時に考慮した生物等価線量計算アルゴリズムを構築した。ここで、線量率依存性に関しては、申請段階では一回の照射中における線量率依存性を対象にしたが、これまでの症例において一回の照射時間は損傷回復が起こる時間よりも十分短く済んでいるため、一回の照射は時間の関数としてはデルタ関数として扱い、より大きな影響があると考えられる、照射期間全体において、どの時間間隔で照射が行われたか、といった問題について、まずは検討することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には、時間依存混合LET型生物モデルの構築と、動体追跡スポットスキャニング照射への応用を予定していた。上述のように、申請段階では一回の照射中における線量率依存性を対象にしたが、これまでの症例において一回の照射時間は損傷回復が起こる時間よりも十分短く済んでいるため、一回の照射は時間の関数としてはデルタ関数として扱い、より大きな影響があると考えられる、照射期間全体において、どの時間間隔で照射が行われたか、といった問題について、まず検討を行っている。従って、時間依存混合LET型生物モデルそのものについては、検討を次年度以降に後ろ倒しした。また、動体追跡スポットスキャニング照射の実績ログを取得するシステムについては、別プロジェクトと共同で開発を進めており、実際のビームを用いた検証測定を含め完了している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度に引き続き、線量平均線エネルギー付与分布計算機能のモンテカルロ計算システムへの実装を完了させ、北海道大学が所有するノズル各種(素のノズルの他、短飛程補償アプリケーター、動体追跡アタッチメント付のノズル)にも対応させる。平成27年度に構築した生物等価線量計算アルゴリズムを搭載した計算システムのプロトタイプ開発を行う。また、平成29年度に実施予定の生物学的Adaptive therapyに向けた研究開発の準備として、治療途中における治療効果をいくつかの尺度で評価し、残りの照射回で補償する手段について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
モンテカルロシミュレーション用に計算用ブレードを購入予定であったが、使い勝手の観点から、ワークステーションに切替えた。また、2台購入予定であったが、まずは1台のみ購入し、もう1台は次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にワークステーションを購入する予定である。
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