研究課題
本研究では、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)で従来から用いられているホウ素化合物、特にBSHの腫瘍内分布および滞留時間を改善することで、BNCT治療効果の向上を最終目標とする。BSHのドラッグデリバリーを改善させる方法として、その構造上から化合物の包接が可能であり、また包接する化合物の水溶性を向上させる特徴から、シクロデキストリン(CD)に着目した。このCDに対し、多くのがんで高発言することが知られる葉酸受容体(folate receptor)を標的とするため、葉酸(folic acid)を修飾した葉酸修飾シクロデキストリンを合成した。ホウ素化合物であるBPAおよびBSHと葉酸修飾シクロデキストリンとの相互作用を吸光度による安定度定数および化学量論比を算出することで評価した。紫外可視分光光度法(UVスペクトル法)を用いた。5~20μMに調整した葉酸修飾シクロデキストリン溶液に対して、5μMに調整したBPAおよびBSHを加え、紫外可視分光光度計(V-550UV/VIS Spectrophotometer)を用いて、葉酸修飾シクロデキストリン溶液添加によるスペクトルの変化を観測し、相互作用の有無と極大吸収波長を確認した。吸光度からScott式を用いて安定度定数Kcを算出した結果、BSHに対し1.4x10^4/M、BPAに対し1.2x10^4/Mであった。次いで、吸光度変化による化学量論比(包接個数)の算出を行った。25μMの葉酸修飾シクロデキストリン溶液、BSH溶液、BPA溶液をそれぞれ調整し、混合比を変え各混合比サンプルを紫外可視分光光度計にて吸光度を測定した。BSHおよびBPAの吸光度変化から、連続変化法により化学量論比を算出した。バラツキが大きく再検討が必要だが、BSHおよびBPA共に葉酸修飾シクロデキストリンと1:1~2:1の比率で複合体を形成する可能性が示唆された。
4: 遅れている
研究が遅れている最大の要因は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の実施に必須である中性子線源の利用が困難だったことである。当初の予定では、平成27年度は京都大学原子炉実験所の研究用原子炉の熱中性子線を用いて、細胞およびマウス移植モデルに対する照射を行う予定であった。しかしながら、原子力規制委員会による試験研究用原子炉の新規性基準へ適合確認取得が大幅に遅れたため、平成27年度は1回の照射実験も実施できなかった。さらに、筑波大学が茨城県東海村にあるいばらき中性子医療研究センター内で開発を進めている加速器型BNCT装置についても、中性子ビームの取出しには成功したがその後のコミッショニングが想定より大幅に遅れており、細胞照射に最低限必要な電流値(2 mA)と照射時間(30-60分)の確保ができなかった。このため原子炉中性子源の代替として加速器中性子源を使用することもできず、当初予定した平成27年度研究計画は遅れていると判断せざるを得ない。
中性子線源に関して:京都大学原子炉実験所の研究用原子炉を用いた実験については、2016年4月時点で原子力規制委員会からの適合確認が取れたため、平成28年度の原子炉運転および照射実験の遂行が可能であると考える。ホウ素化合物に関して:平成28年度は、既に合成が完了した葉酸修飾シクロデキストリン(CD201)で包接したBSHおよびBPAの腫瘍内集積性の詳細な評価を行う。具体的には、投与量による腫瘍内分布量の差異、集積量の投与後時間依存性等の評価を行う。また、BPA、BSHおよびCD201に対して蛍光色素を標識しすることで、腫瘍内および細胞内分布領域を視覚的に確認する。照射実験に関して:原子炉および加速器型BNCT装置による照射実験を遂行する。移植腫瘍マウスにBPAおよびBSHを単剤で投与し、京大原子炉および筑波大加速器を用いて中性子線照射を行い、原子炉BNCTと加速器BNCTとの効果の差異を明確にする。生物効果の比較には、熱中性子線単独による効果を生物学的効果比(Relative biological effectiveness:RBE)で、ホウ素化合物を加えた際の効果をCompound biological effectiveness factor(CBEF)を用いる。次いで、平成27年度に安定度定数等を確認した葉酸修飾シクロデキストリンを用い、包接したBSHおよびBPA投与後の抗腫瘍効果をそれぞれの単剤投与による効果と比較することで、葉酸修飾シクロデキストリンの有用性を評価する。平成28年度は上記実験を現BNCT適応がんであるヒト悪性黒色腫由来細胞およびヒト神経膠芽腫由来細胞にて行い、平成29年度は新規適応がんとして、膵臓がん、肝臓がんまたは乳がん由来細胞を用いて評価を行う。
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