研究課題/領域番号 |
15K09993
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木梨 友子 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (80252534)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / DNA損傷 / 分割照射 |
研究実績の概要 |
平成28年度は放射線照射回数の分割による脳腫瘍細胞へのDNA損傷および免疫応答への影響を調べた。放射線治療では正常細胞の副作用回避のために分割照射が実施されている。一方、分割照射の時にはがん細胞では放射線によるDNA損傷の回復が起こるため、一回照射に比べてがんに対する放射線の効果は減弱する。今年度はホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の分割照射効果について研究成果を得た。 ヒト神経膠芽腫細胞のp53変異型であるT98G細胞を用いて実験を行った。対数増殖期の細胞を準備し、照射1時間前にホウ素化合物BPA( Boronophenylalanine )を細胞培養液に添加し、中性子(1MW)を分割照射した。照射後は細胞の生存率、53BP1フォーカス免疫蛍光染色によるDNA損傷および細胞培養液中のサイトカイン(IL1,IL6)測定を行い生物効果をガンマ線分割照射の結果と比較しその特徴を検討した。 中性子照射ではT98G細胞は分割照射で回復が確認されたが、分割中性子照射の回復程度ははガンマ線照射にくらべ3分の1前後で、分割照射による回復程度は小さいことが確認された。照射後のDNA損傷を示す53BP1フォーカス数の結果では、中性子の単回照射と分割照射でフォーカス数平均値に大きな変化が見られなかった。分割照射ではフォーカス数のばらつきが大きかった。これは分割照射によって修復が促された細胞と修復が遅延した細胞の混在による思われる。また、照射後72時間後のサイトカインについては有意な上昇は見られなかった。放射線分割照射では免疫反応が惹起されるとの報告がされている。中性子照射線量が少なかったため免疫反応上昇の有意な結果が得られなかったと思われる。今後はBNCT中性子照射による免疫反応賦活化効果の検証を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原子力規制委員会による試験研究用原子炉が新規制基準に適合していることの確認(適応確認)への対応のため、京都大学原子炉実験所研究用原子炉の再稼働が許可されず、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に利用している研究炉が停止している。このためBNCTの中性子照射が実行できず、課題研究のマウスのBNCT照射実験ができていないため。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はマウス移植腫瘍へのガンマ線照射実験により、照射部と脾細胞の組織変化を調べることでアブスコパル効果による免疫系の賦活化を検証する。腫瘍部位へガンマ線照射を行った時の照射部位ではない脾臓の放射線照射の影響を以下の方法で観察する。①放射線照射直後の脾細胞障害の評価を脾細胞のアポトーシス誘導、さらにDNA-dsb (double strand breaks)修復関連タンパクgamma-H2AX および53BP1を染色してDNA-dsb部位に集積するフォーカス数の観察により脾細胞の障害度を把握する。②脾細胞における免疫反応の評価を行う。放射線部分照射後に脾臓マクロファージをHE染色および抗F4/80抗体を用いた免疫染色で同定し免疫反応を評価する。 京都大学原子炉実験所研究用原子炉の再稼働が許可され中性子照射実験が可能になり次第、マウス移植腫瘍に原子炉重水設備を用いて中性子照射を行い、ホウ素中性子捕捉療法におけるアブスコパル効果の実験を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
京都大学研究用原子炉が原子力規制委員会による試験研究用原子炉の新規制基準に適合しているかどうかの確認(適合確認)への対応のため稼働していない。このためホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のための中性子照射ができなかった。マウスのBNCT実験に用いるホウ素化合物(BPA10g あたり400,300円)の購入経費および実験用マウスの購入を予算計上していたが使用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は京都大学原子炉実験所研究用原子炉の再稼働が許可され中性子照射実験が可能になり次第、マウス移植腫瘍に原子炉重水設備を用いて中性子照射を行い、ホウ素中性子捕捉療法におけるアブスコパル効果の実験を開始する。腫瘍部位へ中性子線照射を行った時の照射部位ではない脾臓の放射線照射の影響を以下の方法で観察する。放射線照射直後の脾細胞障害の評価を脾細胞のアポトーシス誘導、さらにDNA-dsb (double strand breaks)修復関連タンパクgamma-H2AX および53BP1を染色してDNA-dsb部位に集積するフォーカス数の観察により脾細胞の障害度を把握する。さらに脾細胞における免疫反応の評価を行う。放射線部分照射後に脾臓マクロファージをHE染色および抗F4/80抗体を用いた免疫染色で同定し免疫反応を評価する。
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