今年度は前年度までの細胞実験による成果を踏まえて、マウスの照射実験で中性子部分照射時のアブスコパル効果をとらえ、さらに、個体の放射性感受性の差で中性子照射時のアブスコパル効果の変化を調べることを目的として実験を行った。はじめに、DNA二重鎖切断に対する修復酵素の機能異常により放射性高感受性であるSCIDマウスの中性子に対する感受性を調べた。マウスの頭部照射による口腔粘膜障害死を指標として中性子照射とガンマ線照射を比較することでRBE値(生物学的効果比)を求めた。口腔粘膜障害死のRBE値はSCIDマウスでは1.61、比較対象の近交系マウスC3Hは2.08であった。さらに照射部位ではない脾細胞のアポトーシスを比較して頭部照射時のアブスコパル効果が放射線感受性の差でどのように変化するかを調べるため、中性子照射後に経時的に脾臓を取り出し脾細胞のアポトーシスの変化を経時的に調べた。脾細胞のアポトーシスの変化は頭部の線量に伴って増加し中性子部分照射時のアブスコパル効果がとらえられた。また、脾細胞のアポトーシスが最も高く表れた時点での比較によるRBE値はSCIDマウスでは1.67、比較対象の近交系マウスC3Hは2.12で照射部の障害である口腔粘膜障害と非照射部位の脾細胞のRBE値はいずれもSCIDマウスがC3Hマウスより低かった。これらの結果から中性子照射では照射部位の正常組織およびアブスコパル効果としての非照射部位の影響は、X線やガンマ線に比べて放射線感受性についての個体差が表れにくいのではないかと予測される。
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