研究課題/領域番号 |
15K10007
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鍵谷 豪 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (30524243)
|
研究分担者 |
小川 良平 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (60334736)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | がん幹細胞 / アポトーシス / 可視化 |
研究実績の概要 |
がん幹細胞とは,自分自身を複製する自己複製能と,がん細胞へ分化しがん組織を構築する多分化能を有する細胞である。治療後のがん幹細胞の残存を基にがん階層構造の再構築がおこなわれ,腫瘍の再発,転移を引き起こす。つまり,がんの根治を目指す上で,がん幹細胞の増殖制御をおこなうことは喫緊の課題である。このような背景下,我々はがん幹細胞のアポトーシス可視化は,新規抗がん剤の探索や放射線治療における分割照射条件検討による治療法開発に有用な評価方法であると考え,リアルタイムにがん幹細胞のアポトーシスを可視化するシステム構築を目的としている。一昨年度は,蛍光タンパク質プローブを用いたがん幹細胞アポトーシス可視化システムにおいて要である2断片化した緑色蛍光タンパク質(GFP)の再構成を試みた。その結果,プロテインスプライシングを応用することでGFPの蛍光強度は上昇し,その再構成に成功した。昨年度は,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を応用したアポトーシス検出プローブを用い,がん幹細胞のニッチである低酸素領域でのアポトーシス検出を試みた。通常,GFPの蛍光エネルギーはFRETにより赤色蛍光タンパク質(RFP)に移動し赤色蛍光(RF)を放つが,アポトーシスによりGFPとRFP間のDEVD配列が切断されるとその間の距離が離れFRET効率が減少し緑色蛍光(GF)を放つ。つまりGF/RFよりアポトーシス細胞のイメージングが可能となる。実験の結果,アポトーシス誘発剤スタウロスポリン(STS)添加群のGF/RFは非添加群と比較し上昇し,アポトーシス細胞の検出に成功した。しかし,低酸素分圧下においてはSTS非添加・添加群間でRFからGFへのFRETは認められたが,そのRF強度は非常に低く,このプローブを用い低酸素環境下,数の少ないがん幹細胞およびそのアポトーシスを可視化することは困難であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は,2種類の蛍光タンパク質プローブを用いアポトーシス細胞可視化について検討した。1つは近赤外蛍光タンパク質(IFP)を用いたiCasper法であり,もう1つはFRETを応用したFRET法である。iCasper法は,アポトーシス誘発により活性化したカスパーゼ3が,その認識配列であるDEVD配列を特異的に切断し,その結果IFPが細胞内で再構成され近赤外蛍光にてアポトーシス細胞のイメージングを可能にする。この方法を用いSTSで誘発したアポトーシス細胞の可視化を試みたが,フローサイトメトリーで近赤外蛍光は観察されなかった。次に,もう1つの方法であるFRET法を用いアポトーシス細胞の可視化を試みた。通常状態ではGFPの蛍光エネルギーはFRETによりRFPに移動しRFを放つが,アポトーシスによりGFPとRFP間のDEVD配列が切断されるとGFPとRFP間の距離が離れFRET効率が減少しGFを放つ。つまりGF/RFよりアポトーシス細胞のイメージングが可能となる。実験の結果,STS添加群のGF/RFは非添加群と比較し上昇し,アポトーシス細胞の検出に成功した。また我々は低酸素領域にがん幹細胞が存在することを考慮し,塩化コバルトを用い疑似的な低酸素環境下でのアポトーシス細胞検出について評価した。その結果,塩化コバルトとSTS添加群のGF/RFはSTSのみを添加した群と同様な値を示し,擬似的な低酸素環境下でのアポトーシス細胞の検出に成功した。さらに,我々は実際に0.1%酸素分圧下でのアポトーシス蛍光プローブタンパク質の蛍光特性評価をおこなった。0.1%酸素分圧下STS非添加・添加群間でRFからGFへのFRETは認められたが,そのRF値は非常に低く,このプローブタンパク質を用い低酸素環境下,数の少ないがん幹細胞およびそのアポトーシスを可視化することは困難であると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
マウスを用いた生体腫瘍実験へアポトーシス蛍光プローブを応用した場合,蛍光強度が低いためがん幹細胞およびそのアポトーシスを検出することは難しいと予測される。これまでに,我々はホタルルシフェラーゼを環状化しアポトーシスをリアルタイムに可視化するシステムを,低酸素応答プロモーターで発現制御することで,低酸素領域内で誘発されるアポトーシス細胞を特異的に可視化することに成功している(G. Kagiya et al. 2016 Mol. Ther. Methods Cli. Dev. 5:16009)。つまり,CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いOct4やNanogのような幹細胞特異的転写因子で制御される遺伝子下流に,これら構築したアポトーシス可視化システムを2Aペプチド配列と共にノックインし,がん幹細胞アポトーシスをイメージングすることは可能と考えられる。しかし分化したがん細胞数と比較し,生体腫瘍内でのがん幹細胞数は少ないと考えられ,がん幹細胞アポトーシス可視化の成功には,より発光強度の高いルシフェラーゼシステム構築が望まれる。近年,ホタルルシフェラーゼより100倍以上の発光強度を有する深海エビ由来のルシフェラーゼシステムが開発された。今後の研究推進方向として,我々は①少ない数の幹細胞アポトーシスを検出するため,発光強度の高い深海エビ由来のルシフェラーゼを用いアポトーシス可視化システムを構築すること,②このシステムをがん細胞の幹細胞特異的転写因子で制御される遺伝子下流にノックインした安定発現株を構築すること,③構築した安定発現株を播種した担癌マウスを作製し,がん幹細胞のアポトーシスの可視化をおこなうこととし,研究目的の達成を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度,蛍光タンパク質を用いがん幹細胞可視化システム,およびがん幹細胞アポトーシス可視化システムを構築し,このシステムをCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用い,特定遺伝子下流にノックインするまでを予定していた。しかし,FRET蛍光プローブの低酸素環境下におけるRFの蛍光強度は低く,CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いた次の実験ステップへ移行したとしても,がん幹細胞を可視化できないと予測された。このため,CRISPR/Cas9ゲノム編集技術に使用予定であったベクターや試薬等を購入する必要がなく,使用額に差が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
今後の研究推進方策等で記載したように,腫瘍深部で,かつ数の少ないがん幹細胞のアポトーシスを可視化するため,発光強度の高い深海エビ由来のルシフェラーゼを用いアポトーシス可視化システムを構築する予定である。また,このシステムをがん細胞の幹細胞特異的転写因子で制御される遺伝子下流にノックインした安定発現株を構築する予定である。この実験で使用予定の深海エビ由来のルシフェラーゼシステムおよびCRISPR/Cas9ゲノム編集に関連する試薬等の購入を主な使用計画とし,研究を推進する。
|