チャイニーズハムスターのCHO細胞、CHO細胞を親株とするDNA-PK欠損株(非相同末端結合欠損株)、XRCC3欠損株(相同組換え欠損株)にX線や重粒子線を照射し、DNA二本鎖切断の指標であるリン酸化型ヒストンH2AXのフォーカス数の経時的変化を調べることによりDNA修復効率を評価した。X線照射後、非相同末端結合欠損株と相同組換え欠損株では、野生株に比べてDNA修復に二倍程度時間がかかった。一方、炭素線(LET = 80 keV)、アルゴン線(LET = 300 keV)では非相同末端結合欠損株は野生株に比べて大幅に修復が遅れ、野生株では24時間後に大部分の修復が完了しているのに対して、炭素線では照射24時間後に40%、アルゴン線では90%のDNA二本鎖切断が修復されずに残った。また、相同組換え欠損株では、炭素線での遅延はX線と同程度であったが、アルゴン線では非相同末端結合欠損株ほどではないものの、修復は大幅に遅延し4~5倍の時間を要した。 次に、ヒトHeLa細胞に対してDNA-PKとRad51の阻害剤を用いて同様の実験を行い、DNA修復に与える影響を調べた。DNA-PK阻害剤ではX線、重粒子線いずれの場合も、照射後の修復が大幅に阻害されたのに対して、Rad51阻害剤はDNA-PK阻害剤ほど大きな影響を与えなかった。 以上の結果は、いずれの放射線でも主たるDNA修復機構は非相同末端結合であることを示唆している。また、相同組換え機構は非相同末端結合欠損をある程度相補できるが、エネルギーが高くなると相同組換え反応で相補できないことから、エネルギーが高くなるほど相同組換えが阻害されていると考えられる。
|