これまでの放射線の生体影響研究では、放射線は数多く存在する細胞に対して『均一に照射されたと仮定』して解析されている場合が多かった。しかしながら、実際には照射は不均一であり、被ばくした細胞としていない細胞が存在する。また、放射線発がんは必ずしも被ばくを受けた細胞から生ずるのではないことが判明しつつある。放射性発がん、特に内部被ばくによる発がんを理解するには、被ばくした個々の細胞がどのような運命を辿り、また被ばくしなかった細胞との関係性について長期間に渡り追跡することが必要である。これには、細胞の被ばくの有無を可視化できる「生体内被ばく細胞追跡システム」を構築する必要がある。そこで本研究では、放射線に鋭敏に応答する遺伝子プロモーターを見いだし、そのプロモーターによってCre遺伝子を発現させ、LoxP配列を持つレポーター遺伝子の発現を変化させることにより、個々の細胞における被ばくの有無を可視化する「生体内被ばく細胞追跡システム」の構築を目的とした。 EGR1は放射線に対し高い応答性を持ち、さらに放射線応答に必要な領域が報告されている。そこで、EGR1の放射線応答領域をプロモーターとし、その下流にCreリコンビナーゼをもつベクター(EGR1-Cre)を構築した。さらに、loxP配列をもつレポーターとして、CMV-loxP-DsRed-loxP-ZsGreenベクターを安定的に発現するHeLa細胞を樹立した。樹立したHeLa細胞に構築したEGR1-Creベクターを導入し、X線を照射したところ、未照射ではDsRedの赤色蛍光を示すのに対し、放射線照射によりZsGreenの緑色傾向を示す細胞と赤色蛍光を示す細胞が混在した。さらに緑色蛍光の細胞は死滅するまで緑色蛍光を示していた。これらのことから、個々の細胞における被ばくの有無を可視化するシステムが構築できた。
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