研究実績の概要 |
高度の肥満者は乳癌発症率が高いこと、肥満を伴う乳癌罹患患者の予後はそうでない者より有意に不良であること、などという疫学的事実が知られており、脂質と発癌の関係には以前より関心が寄せられていた。体内における脂質の蓄積と一部の乳癌発生には深い関連があると考えられているが、乳癌癌部における脂質組成を解析した研究が未だほとんど報告されていないため、癌部の脂質組成を解析する研究は重要な基礎データとなると考えられる。 今回、我々が解析に用いる質量顕微鏡は、標本となる組織切片に細径レーザーを照射しイオン化することで、局在に含まれる分子を検出・可視化する手法であり、研究分担者瀬藤教授が開発に携わったものである。これまで彼らは、質量顕微鏡法を用いて、リン脂質、リゾPC、トリグリセリド、糖脂質、セラミドなどこれまで脂肪酸長を分離した精度での解析・可視化に成功してきた。(Sugiura et al.,Neuroscience, 2011)、(Hanada et al., Anal Bioanal Chem,2012)。平成25年度には乳癌組織検体を用いた質量顕微鏡法解析も報告しており、乳癌癌部に特徴的な脂質合成が示唆される結果を報告している。 また、日常臨床において乳癌は免疫組織学的結果に基づいた4つのサブタイプ分類によって治療方法や予後がわけて考えられるのが通常である。同じサブタイプに分類される乳癌は、類似した生物学的特性をもつが、この4つの分類では不十分で、同じサブタイプに属する乳癌でも異なる様相を呈する場合がある。そのため、治療方針決定に直結する乳癌を細分化するための新機軸が探し求められている。
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