One-step nucleic amplification (OSNA)法はサイトケラチン19のmRNA (CK19 mRNA)をターゲットとして、リンパ節転移を診断する方法である。この分子生物学的方法では30-40分で解析が可能で、手術中に診断を下すことが可能である。通常の乳癌症例にはその信頼性が証明されているが、手術前に化学療法を行った症例における検討は行われていない。この研究の目的は原発性乳癌患者で術前化学療法を施行した症例におけるセンチネルリンパ節生検において、OSNA法によるセンチネルリンパ節の転移診断の有用性を明らかにすることであった。まず、最終目的であるノンセンチネルリンパ節転移予測モデルを化学療法をしていない通常の乳癌632症例を対象に、OSNAのコピー数の総和と腫瘍径の2つを用いたモデルを作成し、NPV=93.2%という良好な結果であった。次に、化学療法施行症例のうち適切にサンプルが得られた88症例(リンパ節にすると415個)を用いて解析を行った。結果はリンパ節全体における感度は92.3%、特異度88.5%、正診率93.3%であったが、センチネルリンパ節に限ると転移診断における感度は87.8%であり、ノンセンチネルリンパ節の95.1%に比べ有意に悪い結果であった。その理由を検証するためCK19 mRNAのIn situ hybridizationを行ったが、その結果センチネルリンパ節においてノンセンチネルリンパ節にくらべ有意にCK19 mRNAの発現低下がみられた。しかし、同じ標本における免疫組織学検索ではCK19のタンパクレベルでの低下は認められなかった。よってセンチネルリンパ節におけるCK19の発現の低下はタンパクレベルでなくmRNAレベルで起こったと考えられ、それは化学療法によってそのような低下が引き起こされたのではないかと考えられた。
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