昨年度に引き続き、メカニズム探索のための細胞実験を中心に研究を実施した。エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌に対するホルモン療法への薬剤耐性化に関連し、活性化する膜レセプターとしてHERファミリーの存在が知られている。HER1、HER2に関しての研究は比較的広く行われているが、ER陽性乳癌におけるHER3の役割についての報告は少ない。我々は、このHER3に着目して研究を行ってきており、昨年度までの研究からHER3の蛋白分解に関してエストラジオールが促進的に作用すること、この作用は1nMの濃度で最も強くみられること、この分解はユビキチンプロテオソーム経路によることを確認している。本年度はさらに標的分子のノックダウン実験を数多く行い、いくつかの候補分子から、この分解促進に関わるユビキチンリガーゼがNedd4-1であることを同定した。様々な条件下における、ERのノックダウン実験とあわせ、HER3の分解をERが抑制しており、エストラジオールによってERが急速に分解されることで(既知)、HER3の分解抑制が外れ、HER3も分解が亢進する作用機序が最も妥当と考えられるデータを得た。またNedd4-1はERの分解にも関与しており、ER陽性乳癌におけるユビキチンリガーゼNedd4-1の生物学的な重要性について、今後さらに研究が必要と考えられた。これら3年間の研究成果について、2018年5月の第22回日本がん分子標的治療学会で報告するとともに、論文投稿を行う。
本研究の目的の一つとして患者検体を用いたトランスレーショナルリサーチも実施してきたが、JFMC 34-0601 試験 (原発乳癌に対するアロマターセゼ阻害薬エキセメスタンによる術前ホルモン療法試験; UMIN試験登録番号C000000345)について、長期予後データを論文報告した。
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