酸性微小環境が、癌のリンパ節転移にどのように影響するかを明らかにするため、前年度に引き続き、アシドーシスとリンパ管内皮細胞(HDLEC)との相互作用について検討を行った。 HDLECを用いたマイクロアレイ解析の結果、pH6.4の酸性環境下では接着因子やケモカインなどの発現が上昇することが示された。そこで、接着因子の1つであるE-selectinに着目し、酸性環境との関連性を検討した。培養液をpH6.4に置換すると、3時間後をピークにE-selectin mRNAの発現が増加し、24時間後においてもその効果が持続して認められた。これまでの実験において、酸刺激は酸感受性受容体TRPV1を介してIL-8の発現を増加させる結果が得られていたため、E-selectin発現におけるTRPV1の関与を考えた。しかしながら、TRPV1アンタゴニストであるIRTXを処置してもE-selectin mRNAの発現誘導を抑制できなかったことから、E-selectin発現にはTRPV1以外の受容体の関与が示唆された。現在、HDLECにおいて高発現が認められた受容体の1つであるGPR4について検討中である。 リンパ管内皮細胞におけるE-selectinの発現増加は、癌細胞との接着の機会を増加させ、転移に促進的に働いている可能性が考えられる。そこで、HDLECの単層培養に対し、GFPを組み込んだヒト乳癌細胞株MDA-MB-231を播種し、細胞接着を観察した。その結果、酸刺激を行ったHDLECでは、MDA-MB-231の接着数が増加する傾向が観察された。 MDA-MB-231に対する酸刺激の効果も同様に検討したところ、pH6.4の環境下ではIL-8の発現が有意に上昇し、細胞の運動性や浸潤能が有意に増加する結果が得られた。
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