チロシンキナーゼ阻害剤は、甲状腺がんを含むがんの分子標的療法として注目されており、数多くの薬剤が開発され使用されている。しかし、その作用機序は非常に似通っており、全く機序の異なる薬剤はほとんどないのが現状である。これまでの研究で、甲状腺がんをはじめ複数のがんの発症に関与するRETチロシンキナーゼの活性を、従来の阻害剤とは全く異なるシステインを介した機序により制御できることが明らかとなった。本研究では、その効果を細胞レベルから実験動物レベルで検討し、より有効で副作用の少ない治療法として応用へ近づけることを目的とした。 まず、RETキナーゼを導入しがん化したマウス細胞を用いた、システインを介したRET活性阻害の効果の検討に関しては、これまで主に甲状腺がんを引き起こすRET-PTC1に対して有用性を確認してきた。本年度は、そのほかに異なる変異RETとして、RET-MEN2A、RET-MEN2Bについて検討した。その結果、これら二つのRETキナーゼ活性およびその下流シグナルを抑制できることが示された。現在、これらの変異RETを発現した細胞の悪性度などの検討を、継続している。 また、ヌードマウスに移植した腫瘍に対し、システインを介したRET阻害法を試みたところ、移植腫瘍内でのRETチロシンキナーゼの活性が抑制できる可能性が示された。しかしその効果はまだ弱く、腫瘍増殖を抑えるには十分とは言えない結果であった。引き続き、投与方法や投与量の検討が必要であると考えられる。
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