研究実績の概要 |
本研究では、乳癌の治療効果に関与する免疫機構を局所と全身の免疫応答によって明らかにする。全身の免疫応答の評価として、血清中サイトカインをBio-Plex2200マルチプレックス検査にて測定した。サイトカインは、IL-1β, 1ra, 4, 6, 7, 8, 9, 10, 12(p70), 13, 17, Eotaxin, FGF basic, G-CSF, IF-γ, IP10, MIP-1α, MIP-1β, PDGF-bb, PANTEC, RANTEC, TNF-α, VEGFである。対象は53例で、25例は術前化学療法(NAC)の前後で測定し、残り28例のうち、12例の無再発症例、16例の再発症例の手術時血清サイトカインを測定し、再発に関与する因子を検討した結果、ベースラインの血清中RANTES値は、再発群で無再発群に比べて有意に高値を示した(p=0.0062)。RANTESにより生じる炎症反応が乳癌の増速や進展に関与し予後に影響する可能性が推測される。また、NAC25例を対象に治療前、後でサイトカインを測定し治療効果と相関する因子を検討した。25例のうち病理学的完全奏効(pCR)群7例とNon-pCR群18例で検討した結果、pCR群では、IL-1ra(p=0.0082)とTNF-α(p=0.023)が有意に高い値を示し、IL-9(p=0.018)とFGF basic(p=0.028)値が有意に低下したことから、ベースラインで免疫応答のある乳癌では、より治療効果が高い可能性があり、免疫応答が治療反応性に関与している可能性がある。 局所における免疫応答と治療効果を評価するため、NAC前の生検組織、NAC後の手術検体において免疫組織染色を行った。既に70症例の免疫組織染色を行っており、今後CD8, FOX-P3, PD-1, PD-L1を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、患者の化学療法前および術後の腫瘍検体を集積することと、局所における免疫応答を解析することであった。当施設では年間約50例に対して、術前化学療法を施行している。乳癌局所における免疫応答を評価するために、NAC前の針生検で採取した組織ならびに、NAC後の手術検体において免疫組織染色を行った。評価する項目は、ヘルパーT細胞マーカーのCD8, 抑制性T細胞マーカーのFOX-P3, 免疫チェックポイントのマーカーのPD-1, PD-L1である。すでに70症例において免疫組織染色を終了しており、さらに症例数を追加して評価の予定であったが、予定より症例数の集積が不足したため免疫組織染色自体が当初の予定より遅れていて評価できなかったこと、ヘマトキシリン・エオジン染色による組織でのリンパ球浸潤の評価もできなかったことで遅れが生じた。そこで先に平成28年度に行う予定であった全身性の免疫応答の評価として末梢血液中のサイトカインの評価を先に開始した。ところがこちらも症例数の集積不足により血清中サイトカイン測定が少数となったこと、測定の条件設定に時間がかかったために今年度は一部しか測定できなかったことから全体的に遅れが生じた。
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