研究課題/領域番号 |
15K10082
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研究機関 | 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
山口 ゆり 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), その他部局等, 研究員 (80166628)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ホルモン療法耐性 / 乳癌 / 癌幹細胞 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
アロマターゼ阻害剤(AI)による乳癌ホルモン療法に対する耐性獲得機構を解明するため、より生体に近い環境を模して卵巣摘出したSCIDマウスにエストロゲン受容体(ER)陽性乳癌細胞株MCF-7-E10を移植し、in vivoで複数のAI耐性モデル細胞株を樹立した。ERを高発現している耐性株が多く認められたが、ERの発現が著しく低下した細胞株も得られ、この特性は移植を繰り返しても安定して観察された。 各細胞株における乳癌幹細胞を、幹細胞マーカーであるHoechst陰性の細胞集団(side population cells; SP細胞)や、CD44陽性CD24陰性細胞、ALDH1陽性細胞の割合で検討した。SP細胞やALDH1陽性細胞はER高発現の耐性細胞株で多い傾向を示したが、CD44陽性CD24陰性細胞はどの細胞株でも同様に認められ、これらの乳癌幹細胞マーカーは必ずしも同じ細胞集団を示していないことがわかった。ER低発現細胞株は、Xenograftにおいて、ER高発現細胞株より高い腫瘍形成能を示したが、in vitroのmammosphere形成能は、ER高発現細胞株の方が高く、いわゆる乳癌幹細胞マーカーと造腫瘍形成能が一致しないこともわかった。 一方、ERとHER2の発現は逆相関することが知られているが、われわれは、親株において、HER3やHER4のリガンドであるheregulin (HRG)がERの発現を低下させ、HERファミリーの発現を増加させることを見出している。ER低発現細胞株では、HER2をはじめとするHERファミリーの発現が親株やER高発現細胞株より亢進していた。増殖のメカニズムを検討するため、シグナル伝達阻害剤を添加して増殖を検討した結果、PI3K/Akt-mTOR経路の阻害剤はいずれの耐性細胞株でも増殖を阻害したが、ER高発現耐性細胞株の方がより高い感受性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿い、AI耐性モデル細胞株について、ERの発現および特性の解析、乳癌幹細胞マーカーの発現解析と、in vitro、in vivoにおける増殖能と幹細胞マーカーの関係を解析することができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の解析により、ER高発現と低発現AI耐性細胞株では増殖のメカニズムが大きく異なることが判明した。後者はエストロゲン非依存性かつER非依存性に増殖するため、増殖に関わるシグナル伝達経路の解析をさらに進める。また、ER低発現細胞株がXenograftにおいて高い造腫瘍性能を示すメカニズムを検討する。次に、AI耐性におけるHRGの機能を解析するため、AI耐性細胞株の増殖やHERファミリーのシグナルに対するHRGの効果を解析する。また、乳癌の微小環境におけるHRG産生細胞の同定を目指し、種々の乳癌細胞株やAI耐性モデル細胞株、乳癌組織由来のcarcinoma-associated fibroblast(CAF)におけるHRGの発現を解析する。特性の異なるAI耐性細胞株について、miRNAの発現解析からも耐性機序を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究のAI耐性モデル乳癌細胞株はXenograftにおいて樹立し、耐性機序の確認解析において、卵巣摘出SCIDマウスにおける移植実験が不可欠である。しかし、研究所施設の改修工事に伴って動物室も改修したが、SPFの確認作業に時間がかかり、動物室のオープンが遅れたため、マウス購入費用が次年度使用額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
Xenograft実験に用いる卵巣摘出SCIDマウス、細胞培養用の培地と血清、培養容器および乳癌幹細胞専用培地と低接着性培養容器、フローサイトメトリー解析用抗体各種、分子生物学的解析用試薬の購入に使用する。
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