研究実績の概要 |
エストロゲン受容体 (Estrogen receptor、以下 ER) 陽性の閉経後乳癌の多くは、エストロゲン代謝酵素アロマターゼにより局所で供給されるエストロゲンに依存し、アロマターゼ阻害剤(Aromatase inhibitor、以下AI)によるホルモン療法が高い奏効性を示しているが、耐性を獲得する症例も少なくない。われわれはin vitroで樹立した耐性モデル細胞株を用いて、複数の耐性機序を報告したが、本研究ではin vivoの微小環境下でAI耐性を獲得する機序を解析するため、卵巣摘出によりエストロゲンレベルを低下させたSCIDマウスにヒトER陽性乳癌細胞株MCF-7を移植し、長期経過して形成された腫瘍からAI耐性モデル細胞株を複数樹立した。これらの耐性株はin vitroにおいてもエストロゲン非依存性に増殖し、高い造腫瘍能を獲得していた。ERの発現は、AI耐性株14株中3株で低下または陰性化し、その他の細胞株では高発現を認めた。miRNAアレイ解析では耐性モデル細胞株において4個のmiRNAが特異的に増加していた。 一方、HER3, HER4リガンドであるheregulin(HRG)が、ERの発現を低下させ、HERファミリー の発現を増加させること、また、乳癌幹細胞様細胞の割合と癌幹細胞関連遺伝子の発現を増加させることを明らかにした。in vivoで樹立したAI耐性細胞ではHERファミリーの発現が亢進しており、HRG添加により、HER3のリン酸化が誘導され、増殖が促進された。また、HRG存在下ではmTOR阻害剤 のrapamycin やeverolimusによる増殖阻害効果がキャンセルされ、微小環境中にHRGが存在するとmTOR阻害剤による増殖抑制効果が減弱される可能性が示唆された。さらに耐性獲得に伴い、ER陰性耐性細胞で特異的に増加する遺伝子群も同定した。
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