研究課題
これまでに非遺伝性散発性乳癌発症に関わる候補分子としてGANPを同定した。平成27年度は、1)乳癌発症にGANPが関与しているかをヒトganp遺伝子多型(SNPs)により解析、2)乳癌臨床検体におけるヒトganp遺伝子のスプライシング異常の解析、3)GANPの標的分子の同定とその制御、の三点から解析した。1)に関して、愛知県がんセンター研究所疫学・予防部との共同研究により、乳癌症例約700例と非がん対照者約1400例においてヒトganpゲノム遺伝子上に13カ所のSNPsが存在すること、これらはお互いに連鎖平衡の関係にあることが明らかとなった。現在、これらのSNPsが乳癌発症リスクにどのように影響しているかを解析している。2)に関しては、臨床検体においてもヒトganp遺伝子の異常スプライシングが存在するかを検討した。これまでの解析でヒト乳癌細胞株8種類のうち2種類でスプライシング異常を認め、この異常はカルボキシル末端側(HAT領域)に集中していた。臨床検体10例のmRNAを用いてganp遺伝子のシークエンスを行ったところ、2例においてスプライシングの異常を認めた。まだ解析症例数が少ないが、細胞株の解析結果を考え合わせると、約20%の乳癌症例でスプライシング異常が存在する可能性がある。3)に関しては、乳癌細胞株においてGANPの発現をsiRNAにより低下させ、様々な乳癌発症に関連する分子の発現に影響するかを調べた。その結果、BRCA2の発現は再現よく低下することが判明した。この低下は転写レベルで起こっていることが示され、今後そのメカニズムについてさらなる解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究項目としてあげた三点に関しては当初の予定通りに遂行することができた。このうち共同研究として行う1)の進捗がもっとも心配だったが、愛知県がんセンター研究所疫学・予防部の協力を得て予想以上に進めることができた。その理由の一つとして、疫学・予防部で行っている病院プログラムにおけるデータベースにヒトganp遺伝子のジェノタイプがすでに登録されていたことで多数の検体を用いたgenotypingを行う必要がなかったことがあげられる。また2)も他施設との共同研究であるが、所内の倫理審査を受けて予め準備していたため、スムーズに開始することができた。乳癌手術検体から抽出したRNAを用いてRT-PCRを行ったが、目的のバンドが増幅できず、またPCR産物をプラスミドにサブクローニングして多数のクローンをシークエンスすることに時間を費やした。データは予備的であるが、細胞株で見られたヒトganp遺伝子のスプライシング異常を臨床検体でも認め、非遺伝性散発性乳癌の発症にganp遺伝子の機能異常が関わる可能性が示された。現在までに見られているスプライシングの異常はすべてGANP分子のHAT活性の低下を誘導すると考えられ、さらなる解析が必要である。3)の進捗が一番遅れているが、その理由として何故GANP分子の発現を低下させるとBRCA2の発現が低下するのか、という分子メカニズムが明らかにされていないためである。平成28年度にこの点を集中的に行う必要がある。
1)のSNPsに関しては、平成27年度にある程度解析の目処がたち、今後は乳癌症例と非がん対照症例との比較(ケースコントロールスタディ)を行い、乳がん発症のリスクに関わるのかをまず明らかにする。これまでのヒト乳がんコホートを用いた解析でGANP分子の発現低下が乳がんの悪性進展と相関する、という結果が得られている。そのためganpのSNPsの違いにより乳癌患者の予後に差がみられれば、SNPsの有無によってGANPの機能に違いがあることが考えられる。これらは平成28年度中に解析を終え、論文発表する予定である。2)は解析数を増やして本当にヒト乳がん検体のある割合でヒトganp遺伝子のスプライシング異常を認めるのか、を明らかにする必要がある。平成27年度に検体を用いたganp遺伝子のシークエンス解析の条件決めに時間を要したが、50~60症例の乳がん検体を用いて解析を行う予定である。もし乳がん発症のメカニズムの一つにHAT活性の低下が考えられる場合、HATドメインを欠失させた変異体による解析が必要となり、まず細胞レベルでこの作成を試みる。3)に関して、GANP分子の発現低下がBRCA2の発現を転写レベルで抑制していることを平成27年度に明らかにした。そこでGANPの機能としてこれまでに明らかにされているmRNA核外輸送に関わる機能であるのかを解析する。GANPの発現を抑制することでbrca2のmRNA輸送が障害されるかを明らかにする。
研究計画にganp遺伝子の遺伝子多型を解析することをあげており、そのgenotypingにかかる費用を物品費として予定していた。しかし、愛知県がんセンターの疫学研究のデータベースにganp遺伝子の遺伝子多型が13カ所登録されていたことがわかり、genotypingの必要性がなくなり、次年度へ使用額が生じた。
平成27年度の研究により、乳癌細胞におけるganp遺伝子のスプライシング異常がHAT活性に影響を与える可能性が示唆された。GANPのHAT活性の機能を細胞レベルで解析するために乳癌細胞株を用いてゲノム編集によりHATドメインを欠失された変異体を作成する。
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