研究課題
平成28年度は、1)乳癌発症におけるヒトganpゲノムSNPsの関与(平成27年度の解析の継続)、2)乳癌臨床検体におけるヒトganpスプライシング異常、3)GANP以外のTREX2複合体分子の乳癌発症や悪性進展への関与、に関して解析を行った。1)に関して愛知県がんセンター研究所で保管されているデータの解析が進み、ヒトganp SNPsは乳癌発症リスクと強く相関することが明らかになった。この相関は乳癌のフェノタイプとは関係なく、また様々な発症リスクとも相関がみられなかった。現在さらにさらに解析を進め、また乳癌患者予後との相関がみられないかも検討している。2)に関して約50例のヒト乳癌臨床検体から抽出したmRNAを用いてシークエンス解析を行い、約20%でスプライシング異常が起こっており、ほとんどがHATドメインに影響することを確認した。実際にganp遺伝子でHATドメインを欠失されたリコンビナントはHAT活性が消失することを確認した。3)に関してヒト乳癌臨床検体を用いた解析で、PCID2もDSS1も高発現群が低発現群に比べて無再発生存期間が短縮することが明らかになった。また最近BRCA2とTREX2複合体との関連が報告されたが、BRCA2の発現レベルと無再発生存期間とは有意な相関がないことがわかった。現時点でPCID2とDSS1の発現が乳癌発症に影響を与えているというデータはなく、悪性進展にこれらの分子が関わる可能性が示されたため、今後化学療法感受性の観点からさらなる解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究項目としてあげた三点は多少の変更が加わったが当初の予定通りに遂行することができた。1)のヒトganp SNPsは13個のうち10個は連鎖不平衡の関係にあったため、代表的な1個のSNPで乳癌発症リスクとジェノタイプの関係を解析した。三種類のモデルでオッズ比を計算したところ、マイナーアレルを有する集団はメジャーアレルを有する集団に比べて乳癌の発症が約40%に低下することが示され、ganp SNPsのマイナーアレルは乳癌発症リスクに対して抑制的に働くことが示唆された。予定よりも少し時間を要したが、ここまでは当初の計画通りに進行して成果をあげることができた。2)の解析は検体から抽出したRNAの純度にかなり依存する実験だったため、PCRの条件検討に時間を要したが50例の散発性乳癌の検体からのmRNAからcDNAを合成し、その全てをシークエンス解析することができた。予想通り、スプライシング異常をもつ検体ではHAT活性の機能不全が誘導されることがわかり、ヒト乳癌細胞株でみられたスプライシング異常がヒト臨床検体にもみられることを確認した。3)は当初予定した乳腺特異的PCID2欠損マウスの樹立及び解析が自身の異動等が原因で遂行することが不可能になってしまった。これまでの結果を詳細に検討して方針を一部変更して研究を進めることにした。その結果、当初の予想とは異なる解析結果が出たが、これは哺乳細胞におけるTREX複合体の機能を考える上で今後大きな展開がみられると考えられる。
1)のganp SNPsの解析では、平成28年度にマイナーアレルの発症リスクにおける重要性が明らかとなったなったが、これまでのGANPのヒト乳癌検体を用いた解析から、GANP低発現群では高発現群に比べて患者の予後が悪いことがわかっている。そこで、ganp SNPsと患者予後にも相関がみられないかを愛知県がんセンターのデーターベースには10年間の患者予後の追跡結果が登録されており、そこからデータを抽出して統計学的に解析する。2)はほぼ解析を終えたが、得られた結果を機能面からどのように考えるかという問題がある。そこでヒト乳癌細胞株を用いてGANPのHATドメインを欠失した細胞株をゲノム編集技術によって作成し、乳癌細胞における意義を解析する。3)はPCID2とDSS1の化学療法感受性に関わる機能の類似性からTREX2複合体の機能がこれに関わることが考えられるが、過去の報告からTREX2複合体機能不全はR-ループの形成が重要であると考えられている。R-ループはDNA傷害を受けやすいことが知られており、化学療法の感受性に影響を与えることは十分に考えられ、今後この点を中心に解析を進める。GANP、PCID2、DSS1個々の分子が乳癌発症、悪性進展においてどのような役割を果たすのか、複合体としてはどのような機能を示すのかを明確にする。
本研究で得られた研究成果をAACR ANNUAL MEETING 2017(平成29年4月1日から6日まで、米国・ワシントンD.C.)で発表するための旅費に使用するため。
平成29年度研究費で参加する場合、最終年度の研究費に余裕がないため研究遂行に支障がでる恐れがある。平成29年度最初の学会のため、次年度使用とはいえほとんど繰り越さないのと同じ状況である。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Cancer Science
巻: 107 ページ: 469-477
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