本研究では食道癌術後患者の嚥下機能障害を定量的に評価し、術後QOLや治療成績の向上を目指すことを目的とした。嚥下造影を用いた解析では、術後嚥下機能障害の原因として舌、喉頭、咽頭などの協調した運動障害の関与が示唆され、咽頭期における代償性の随意運動の影響が考えられた。高解像度マノメトリーは食道機能性疾患の診断に有用であり、嚥下機能評価にも応用が報告されているが未だ確立した評価方法はない。20チャンネル咽頭HRMを用いた食道癌術後患者の嚥下機能解析に先立ち嚥下機能に異常を認めない健常ボランティア3名の解析を行った。最大嚥下圧 (mmHg) は上咽頭領域で127~197、中下咽頭領域で201~434、UES領域で192~288、UESの最低弛緩圧 (mmHg) は-5.2~4.8、UESの静止圧 (mmHg) は46~75だった。全例で嚥下開始時のUES上方シフトが観察され、スムーズな喉頭挙上を反映しているものと考えられた。上咽頭から下咽頭領域の嚥下伝搬速度 (cm/sec) は6.4~13.4であり、UESの弛緩持続時間 (sec) は0.46~0.76、UESの嚥下圧持続時間 (sec) は0.9~1.5であった。食道癌術後患者では、運動障害の関与に加え、UES機能不全に伴う嚥下圧の低下や残存食道の1次蠕動波の消失、静止食道(胃管)内圧の上昇などにより嚥下障害を来す可能性があると考えられ、引き続き食道癌術後患者のHRMによる解析が必要である。
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