研究課題/領域番号 |
15K10103
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
中村 淳 佐賀大学, 医学部, 助教 (60404175)
|
研究分担者 |
北島 吉彦 佐賀大学, 医学部, その他 (30234256)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | マイトファジー / HIF-1α / ROS / 胃癌 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
固形癌には低酸素領域が存在し、癌悪性形質獲得と密接に関連している。一方で、低酸素ストレスにより傷害を受けたミトコンドリアはミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)などにより処理を受ける。今回、スキルス胃癌を含む高悪性度の癌においては、このマイトファジー機構が破綻しているため、低酸素環境下で不良ミトコンドリアから活性酸素(ROS)が過剰に産生され、さらにROSはHIF-1αを誘導・安定化し、癌悪性度を亢進させる、という仮説を提唱した。 まず、スキルス胃癌細胞株(44As3、58As9)は非スキルス胃癌細胞株(MKN45)と異なり、低酸素環境下でHIF-1α発現が誘導され、ミトコンドリアでROSが蓄積することを示した。さらにROS阻害剤であるN-アセチルシステイン(NAC)を投与すると、低酸素下でのROS産生が低下し、HIF-1α発現も抑制された。一方でHIF-1αをノックダウンすると低酸素でのROS産生が低下し、ROSとHIF-1αが相互に作用していることが明らかとなった。 続いて、オートファジーマーカーを常酸素及び低酸素下で検討した結果、44As3と58As9では低酸素下でのオートファジー機構が働いていないことが分かった。さらに蛍光顕微鏡を用いて、MKN45における低酸素下でのオートファジーがミトコンドリア選択的に起こっている(マイトファジーである)ことを証明した。また、クロロキン(オートファジー阻害剤)で処理すると、MKN45においても低酸素下でのマイトファジーが阻害されROSが蓄積し、その結果、増殖・浸潤能が亢進することを示した。 以上より、“マイトファジー機構の破綻→不良ミトコンドリアからのROS産生亢進→HIF-1αの誘導・安定化→増殖・浸潤能亢進”というメカニズムが証明された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の進捗状況としては平成27年度の研究実施計画にほぼ沿っており、それぞれの実験結果も最初に提唱した“マイトファジー機構の破綻→不良ミトコンドリアからのROS産生亢進→HIF-1αの誘導・安定化→増殖・浸潤能亢進”という仮説を裏付けるものであった。ここまでの結果は、すでに論文化しInt J Oncol 2016; 48(4): 1379-90.に発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究成果、進捗状況としてはおおむね順調である。したがって今後も基本的には研究実施計画に沿って研究を進める方針である。 まず、スキルス胃癌細胞(44As3、58As9)と非スキルス胃癌細胞(MKN45)におけるHIF-1α発現およびROS産生の違い(マイトファジー機構が機能しているか否か)が何によって制御されているかを明らかにする。具体的には、p53の下流遺伝子であるMitochondoria eating protein (Mieap)に着目して研究を進める予定である。スキルス胃癌では、p53変異によってMieapが発現抑制され、マイトファジー機構が破綻しているのではないかと推測している。Mieapの発現抑制/強制発現によるROS産生およびHIF-1α発現の変化を評価し、さらに44As3および58As9におけるp53変異をDNAシークエンスにより明らかにしたい。 最終的には、これまでに当研究室で蓄積してきた癌切除症例の凍結組織やパラフィン包埋組織を用いて、ROS(酸化DNA)の測定及びHIF-1α発現、Mieap発現の評価を行い、臨床病理学的因子や生存期間との関連を統計学的に解析する予定である。
|