研究課題/領域番号 |
15K10115
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
鴻巣 正史 岩手医科大学, 医学部, 助教 (60458180)
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研究分担者 |
岩谷 岳 岩手医科大学, 医学部, 講師 (70405801)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 食道癌 / 癌肉腫 / 変異 / シークエンス |
研究実績の概要 |
癌の発生・進展には癌細胞周囲の間葉系細胞も重要な役割をもつ。癌間葉系機構には癌細胞からの上皮間葉系移行 (EMT)、癌幹細胞からの上皮系・間葉系型腫瘍細胞への分化、癌関連線維芽細胞などの宿主側細胞による癌微小環境の変化、などがあげられる。癌肉腫は癌と肉腫が混在する稀な腫瘍であるが、前述の癌間葉系機構で通常癌に比べて特殊な異常が生じていることが考えられる。食道癌肉腫症例の、病理組織学検討では粘膜固有層より浅層や進行癌深部での肉腫化は見られず、表在食道癌と粘膜筋板周囲が癌肉腫発生の鍵となることが示唆された。癌腫・肉腫部をLaser microdisectionにて分離採取したDNAは断片化が強く、PCR-Sangar sequenceは困難で直接次世代シークエンサーによる変異解析を行う方針とした。DNA qualityから十分なdepthが得られない可能性が高く、標的遺伝子を絞ったtarget sequenceを検討した。他の癌腫で頻用される50の癌関連遺伝子パネルを用い食道扁平上皮癌5症例で解析したところ、TP53とFBXW7の2遺伝子しか変異が同定されなかった。発生組織特有の遺伝子パネルが必要と考えられ、食道癌Exome sequenceの既報告で共通して5%以上の頻度で変異が確認される25遺伝子を搭載した食道癌パネルを作成した。今後、食道癌組織での変異同定率を確認後、癌肉腫症例の部位別sequenceを施行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食道癌肉腫症例は2000年以降症例で7症例存在した。多発食道癌を伴うもの、臨床像は様々であるが、病理組織学検討では粘膜固有層より浅層や進行癌深部での肉腫化は見られず、表在食道癌と粘膜筋板周囲が癌肉腫発生の鍵となることが示唆された。癌腫・肉腫部をそれぞれLaser microdisectionにて分離採取しDNA抽出後、TP53の変異同定を試みたが、DNA断片化が強く解析不能であった。100bp程のフラグメントへの断片化と考えられ、PCR-Sangar sequenceでの確認は省略し、直接次世代シークエンサーによる変異解析を行う方針とした。 次世代シークエンサーによる網羅的(半網羅的)遺伝子変異解析ではその変異同定効率も重要となる。ホルマリン固定パラフィン材料など微量DNAからの次世代シークエンスではそのDNA qualityから十分なdepthが得られないことも多く、ある程度標的遺伝子を絞ったtarget sequenceが必要である。Sequence準備として食道癌5症例における癌関連遺伝子50個のhotspotを標的としたCancer Hotspot Panel (CHPv2)とTP53のすべてのexonを標的としたTP53 panelを用いたtarget sequenceを行いその効率を検証した。CHPv2では、TP53における4つのミスセンス変異と2つのナンセンス変異さらにFBXW7のミスセンス変異1つが確認された。TP53 panelでは、これらのTP53変異に加え、intronの変異が確認された。CHPv2とTP53 panelによる変異検出率はそれぞれ64個/1Mbp, 580個/1Mbpであり、exome解析の変異検出率3.1個/Mbpよりも10倍以上であった。
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今後の研究の推進方策 |
日本人食道扁平上皮癌の144例のExome sequence解析では、90%の症例で見られるTP53変異、10-20%の頻度で見られるNOTCH, NRF2, ZNF750など数個の高頻度変異遺伝子の他、個々の症例で数百の遺伝子変異が見られることが明らかとされた (Sawada G, Iwaya T et al, Gastroenterology 2016)。癌肉腫の部位別sequenceでは、ホルマリン固定標本材料からの解析となるため、標的遺伝子を絞った解析が必要となる。しかし、食道癌では1症例につき平均百数十個の変異があるとされるが、上述の50の癌関連遺伝子が搭載されるCHPv2では、食道癌5症例のうちTP53とFBXW7の2遺伝子しか変異が同定されなかった。発生組織特有の遺伝子パネルが必要と考えられ、食道癌Exome sequenceの既報告で共通して5%以上の頻度で変異が確認される25遺伝子を搭載した食道癌パネルを作成した。今後、食道癌組織での変異同定率を確認後、癌肉腫症例の部位別sequenceを施行予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験準備が整ってから消耗品試薬を購入するため。
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次年度使用額の使用計画 |
DNA抽出キット、遺伝子発現解析用試薬に使用。
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