研究実績の概要 |
食道扁平上皮癌は現行の集学的治療を行ってもなお予後不良な癌腫のひとつである。本研究では癌-宿主間でのケモカインネットワークに着目し,食道扁平上皮癌におけるリンパ節転移や血行性転移に関わる分子生物学的因子と転移成立機序の解明,さらに新たな治療法開発を目的として研究をすすめてきた。これまでの検討では食道扁平上皮癌手術検体におけるCCL21-CCR7, CXCL12-CXCR4, IL8-CXCR2の発現がそれぞれ予後不良因子であり,各ケモカインネットワークが治療標的となり得ることをin virto, in vivoの双方で示してきた。また,ケモカインネットワークの発現数が予後と相関することから,予後予測因子あるいは治療効果予測因子として臨床応用可能なケモカインアレイの開発を目指し,扱うケモカインネットワークの数を増やすべく新たなケモカインネットワークの探求を行ってきた。本年度はCCL5ネットワークについて検討を行い,CCL5およびそのレセプターであるCCR5,CCR3,CCR1の発現が同様に食道扁平上皮癌の予後不良因子であることを示した。さらに,CCL5,CCR5,CCR3,CCR1のうち発現している種類数で層別化すると,壁深達度やリンパ節転移といった病理学的因子とは独立した予後因子であることを見出し,論文投稿準備中である。in vitroでは扁平上皮癌細胞株の増殖能がCCL5濃度依存性に亢進することを示し,逆にCCL5ネットワークを抑制することにより食道扁平上皮癌の悪性度を制御できる可能性について検討中である。
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