本研究の目的は、臨床応用可能な十分な長さを持ち、蠕動運動を行う全層・全周性の食道を再生することである。臨床応用の可能な再生食道には、十分な長さと 蠕動運動が、最低限必要である。この様な消化管は食道を含め再生することは、大動物ではは従来不可能であった。その理由は、血流不足と線維(瘢痕)化、の克服の困難性に要約される。応募者らは、これまでの科学研究費助成研究で上記の蠕動運動に関してはほぼ解決した。すなわち、蠕動運動する、つまり線維化や瘢痕化を起こさない全周性の食道の再生を行った。さらに科学研究費助成研究で、血流の課題の一部を解決する血流豊富な消化管壁を持つ消化管を再生した。本研究ではこれを更に発展させ、未だ成功報告のない臨床応用可能な、つまり十分な長さと蠕動運動を持つ全周性の食道を、大動物のイヌを使って再生することを最終的な目的とする一連の研究を行った。 まず予備的にラットを用いて以下の実験を行った。すなわちラットの胃や腸管の間質細胞(線維芽細胞と平滑筋細胞)を播種した羊膜シートと大網のロール状重ね巻きチューブを作成した。このチューブ内腔に、また同様に、ラット肝臓細胞を用いてこれを不織布上に播種したシートを貼付し、これをラット腹腔内で共培養(腹腔内インキュベート)した。この方法で、血流豊富な平滑筋・線維芽細胞層を壁内に持つチューブを再生維持し、瘢痕(線維)化しない全周性疑似消化管を再生した。次に同様の実験をイヌを用いて行った。実験結果の評価は、現在も実施中である。現在の中間評価の状態で経過観察中であるが、最長で1年に渡り全周性の疑似食道の再生に成功している。今後は、さらに長期の評価を行う予定である。
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