研究課題
肥満は脂肪細胞の過剰な蓄積状態であり、その国際的指標としてBMIが用いられる。近年、我が国においても、欧米を追従するように肥満者が増加傾向にあり、特に男性での肥満者(BMI≧26 kg/m2)の割合は31.2%にも及ぶ。我々は、以前より肥満が悪性腫瘍の進展に及ぼす影響を解明すべく臨床サンプルを用いた研究に取り組んできた。倫理審査承認を経た後、2016年より食道癌手術症例の内臓脂肪として大網の脂肪組織と血清のペアサンプル収集を開始し、今回、そのうちの大網脂肪組織から抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ遺伝子発現解析[高BMI症例(N=3) vs. 標準BMI症例(N=3)]を行った。その結果、Pathway解析にて、高BMIの食道癌患者における大網の脂肪組織では、標準BMI症例と比較して、補体経路、凝固因子活性化経路が有意に活性化していることを突き止めた(前者P=0.0028、後者0,0252)。特にこの中で注目したのが、補体関連遺伝子で、その中でもC3遺伝子(高BMI症例(N=3) vs. 標準BMI症例 P=0.0061))とC4遺伝子(同左 P=0.018)の発現上昇が肥満症例において有意に顕著であった。通常、生体内では、補体成分C3・C4は肝臓で生成されるが、肥満症例では大網から大量に産生されている可能性が高い。さらに大網のケモカイン発現は有意に低下(P=0.0014)していることから、大網自体が炎症の場となり補体を消費している可能性は低いと考えられる。また、我々はこれまで補体受容体を介した腫瘍進展を明らかにしてきた経緯から、「肥満合併の食道癌患者では、その過剰な内臓脂肪から補体成分C3・C4が大量に産生され、それらは腫瘍局所で補体の古典経路の活性化を誘導し、腫瘍微小環境や腫瘍細胞の補体受容体を介して、腫瘍進展に関与しているのではないか」と推測し、今後のさらなる研究の発展を目指している。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件)
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