研究課題/領域番号 |
15K10126
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
江頭 明典 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, その他 (00419524)
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研究分担者 |
藤 也寸志 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 院長 (20217459)
森田 勝 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 消化器外科部長 (30294937)
山本 学 国際医療福祉大学, 福岡看護学部, 教授 (30380405)
南 一仁 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 消化器外科医師 (50522851)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 消化器癌 / DNA修復機構 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、これまでの抗悪性腫瘍剤や分子標的剤ではなく、癌細胞の特性を利用することによる広範な癌細胞特異的治療の試み、いわゆる非癌遺伝子依存(non-oncogenic addiction)を標的とした消化器癌治療を行うための分子機序を解明することである。 これまで研究代表者が関わってきた消化器癌の中でも、DNA修復機構が深く関与すると考えられる食道癌についての基礎的な解析を行った。癌組織における解析は手術によって得られた切除標本を用いることが多いが、食道癌は術前治療が行われる事が多く修飾されている可能性があるため、術前治療を行っていない症例に絞った解析を行った。2003~13年の間に、九州医療センター、および九州がんセンターの 2施設において、術前無治療にて手術を施行し、病理学的に深達度T1a、T1bであった 107例について臨床病理学的因子および治療成績を解析した。平均年齢64.8歳、男性90例、女性17例。重複癌を37例に認め、深達度はpT1a 24例、pT1b 83例、リンパ節転移は33例、リンパ管侵襲陽性が29例、静脈侵襲陽性が13例であった。予後不良の要因となる再発との関連について調べると、単変量解析では、深達度、リンパ節転移および静脈侵襲の有無と原病特異的生存率との間に有意な相関を認めた。病理学的病期に加えて、深達度、リンパ節転移、およびリンパ管侵襲の有無と再発との間に有意な相関を認めた。食道癌特異的生存率との関連を解析したところ、相関を認めた因子は、リンパ節転移(p=0.0001)であり、深達度(p=0.08)および静脈侵襲(p=0.12)について有意差はないものの若干の傾向を認めた。この結果を踏まえ、食道癌についてのDNA修復機構についての解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は実臨床における、食道癌における基礎的解析、即ち食道癌に対し術前無治療にて手術を施行し、病理学的に深達度T1a、T1bであった 107例についての臨床病理学的因子および治療成績について解析を行った。 また平行して、最近注目を集めている、消化器癌の中でいわゆる特殊型である神経内分泌癌についての基礎的解析を行った。食道原発神経内分泌癌において、これまで消化管間葉系腫瘍(GIST)との関連が確認されているc-kitタンパク質発現とDNA修復機構の中心となるp53タンパク質発現異常について解析し報告した(Egashira A. et al, PLOS ONE, 2017)。食道原発神経内分泌癌14例中9例はc-kitタンパク質発現陽性で有り、そのうち8例は同時にp53タンパク質発現も認めた。このことはc-kit経路と共にp53タンパク質の異常が、少なくとも一部の神経内分泌癌の発癌に関与していることを示唆する。 今後は、当初の計画通り食道癌に多く認める扁平上皮癌での解析を主体とするものの、我々の研究から得られた知見をもとに、神経内分泌癌についても解析を進めることを検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、これまでの抗悪性腫瘍剤や分子標的剤ではなく、癌細胞の特性を利用することによる広範な癌細胞特異的治療の試み、いわゆる非癌遺伝子依存(non-oncogenic addiction)を標的とした消化器癌治療を行うための分子機序を解明することである。 これまでの報告から、食道癌においてDNA修復経路、特にDNA二本鎖切断修復機構が関与していることが強く示唆され、同経路を標的とする治療が有用性である可能性がある。同時に、 ”synthetic lethality(合成致死)”即ち、あるDNA修復経路を欠損した癌細胞に対して、相補する他の経路をブロックすることで、両経路が抑制された癌細胞のみが致死的になるとの概念に基づき、相補する経路の同定が強く望まれる。 今後の方針としては、1.消化器癌において合成致死に関与する分子異常の解析を行うと共に、2.術前化学療法および根治的化学放射線療法にて治療効果が明らかな生検サンプルを用いることで、化学放射線療法の感受性や予後との関連の解析を行う。さらには、3.消化器癌におけるDNA修復異常の包括的な解析による相補する経路の同定を行う、ことが非常に重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度内に研究代表者の研究機関の異動(九州医療センターから別府医療センター)が決まった。当初の計画に加えてより解析規模を大きくするとともに、validationの効果も見込み多施設での結果を組み込むため、異動席である別府医療センターでの症例も加える予定とした。 別府医療センターでのデータベースの構築、また解析系の確立、解析の遂行のため次年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者の異動先でのデータベースの構築、解析系の確立、解析の遂行に用いる予定。
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