研究実績の概要 |
本研究は、5-FUによる効果・有害事象を規定する薬理遺伝学的バイオマーカーの同定と機能解析を行うことを目的とした。1. DPYD遺伝子(5-FU分解酵素であるDPDをコード)のスプライシングバリアントを生じる原因となる可能性のある遺伝子多型をSingle nucleotide polymorphism (SNP)データベース (http://nlm.nih.gov/projects/SNP/)、Human Splicing Finder (www.umd.be/HSF/)を用いて、4個のSNPを同定した。さらに、過去の報告から5-FUの副作用に関連する3個のSNPもあわせて、計7個のSNPを解析対象とした。他の5-FU代謝関連酵素遺伝子, MTHFR, OPRT, TYMSについても解析に加え、4遺伝子、33SNPを解析した。2. 5-FU投与を受けた103名の胃癌、大腸癌患者末梢血よりRNAを抽出し、4遺伝子、33SNPに対して、direct sequence法、PCR-RFLP、MassARRAYのいずれかを用い遺伝子多型を同定した。3. 結果、3遺伝子で6個のSNPを同定できた。同定した6個のSNPと5-FUの投与を受けた患者における有害事象の発現頻度を統計学的に解析したところ、DPYD c.496G>A, C.1905+1G>A, C.2303C>Aのいずれかを有する患者(5.3%)に有意に有害事象が発現していた(p = 0.003, OR = 4.68, 95% CI: 1.71-12.8)。その中でも全身倦怠感の発症と有意に相関していた(p = 0.007, OR - 6.68, 95% CI: 1.87-23.9)。なお、c.1905+1G>Aは、欧米でsplice site mutationとして有名であるが日本人種では初の同定と思われた。4. さらに、MTHFR のc.1298A>Cをもつ患者(17%)は有意に好中球減少症を発症していた(p = 0.002. OR=4.17, CI: 1.76-9.86)。今回同定した遺伝子多型を、5-FU投与前にスクリーニングすることで有害事象の発現抑制に寄与できる可能性が示唆された。
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