研究課題/領域番号 |
15K10139
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大嶋 野歩 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (70571454)
|
研究分担者 |
坂井 義治 京都大学, 医学研究科, 教授 (60273455)
久森 重夫 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (50534351)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 人工癌幹細胞 / 大腸癌幹細胞 / 多様性形成 / 薬剤排泄能 / 転写因子ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、大腸癌細胞株に三つの転写因子OSK(O:OCT3/4, S:SOX2, K:KLF4)を同時に導入して作製できる人工大腸癌幹細胞を用いて、これらの因子によって惹起される分子の中で、この細胞における癌幹細胞特性の維持に必須の分子機構を明らかにし、大腸癌幹細胞を治療標的とし得るバイオマーカーの探索・同定を目的として、本年度は以下のことを実施した。 1)①Mock導入株、②O導入株、 ③S導入株、④K導入株、⑤OK導入株、⑥SK導入株、⑦OS導入株、⑧OSK導入株(bulk)、⑨人工大腸癌幹細胞(⑧より選択的に回収)、⑩非人工癌幹細胞集団(⑧のうち⑨以外の細胞集団)、それぞれの細胞株から抽出したRNAを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、各導入細胞株間で差のある遺伝子群の抽出およびそのリスト化を行うことができた。加えて、研究分担者の協力のもと、正常大腸幹細胞と共通しない大腸癌幹細胞に特異的な表面マーカーの発現に関わる分子機構についての検討も行った。 2)個々の導入因子が人工大腸癌幹細胞に誘導された癌幹細胞特性へどのように影響しているかを明らかにするために、単因子、二因子、三因子(bulk)それぞれの組み合わせを導入した細胞株すべてを用いて、誘導される癌幹細胞特性についての機能解析を行い評価した。その一次評価項目については、人工大腸癌幹細胞が獲得した癌幹細胞特性の中で特に重要と考えられる、 腫瘍形成能・腫瘍内多様性形成能・ 細胞極性形成能・薬剤排泄能とした。その結果、腫瘍形成能にはKが、細胞極性形成能にはOとKが、薬剤排泄能にはOとSが強く関与していることが分かった。また、 OSKの組み合わせのみが腫瘍内の多様性形成能に強く関与すること、および、OSの組み合わせでは個々を導入した場合と比べて著明に薬剤排泄能が増大することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的である人工大腸癌幹細胞の癌幹細胞特性維持に必須の分子機構を明らかにするためには、人工大腸癌幹細胞が獲得した癌幹細胞特性(癌幹細胞特異的表面マーカー発現、スフィア形成・薬剤排泄 ・腫瘍形成・ 腫瘍内の多様性形成・ 細胞極性形成 などの能力)について、導入した遺伝子が個々あるいは相加(相乗)的にどのように影響しているかを明らかにする必要があると考え、 本年度はこれらの機能解析を含めた評価を行った。当初の計画に加えて行ったために若干の遅れを生じてしまった。しかし、各因子導入株間で差のある遺伝子群のリスト化は計画通りに達成できたことから、これらの結果は、導入因子によって惹起される下流因子や転写因子ネットワークについての検討を今後行う際に、分子機構と表現系との関係についてのより詳細な解析を可能にすると思われ、本研究の遂行に対して正の影響を与える要素になると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた各細胞株間で差のある遺伝子群のリストを用いて、導入因子によって惹起される遺伝子群の中から人工大腸癌幹細胞においてその特性の維持に必要な分子機構について明らかにする。 平成28年度の成果により、 人工大腸癌幹細胞が獲得した癌幹細胞特性のうちでいずれの特性(表現系)がいずれの導入因子と相関が強いかを照らし合わせることが可能となった。今後は、人工大腸癌幹細胞において統計学的に有意に発現変化している遺伝子群の中で上位のものについて着目し、それらが誘導された癌幹細胞特性の維持に必須であるか否かについての機能解析を行う。具体的には、薬剤排泄能、スフェア形成能、腫瘍形成能(Xenograftモデル)および腫瘍の組織学的多様性(病理学的評価 :HE染色、CK20/CK7/CDX2の免疫染色)、これらの特性を評価項目として用いる予定である。 以上によって、人工大腸癌幹細胞の特性維持に必須な遺伝子群(特に転写因子群)が明らかとなれば、大腸癌組織検体中でのそれらの発現についても調べ、大腸癌幹細胞の新規バイオマーカーおよび治療標的とし得る分子の同定に向けて展開していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
若干の端数が生じた為。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算とと合わせて使用予定である。
|