研究実績の概要 |
癌組織中にごく少数ながら存在する癌幹細胞は、癌組織の維持・進展・転移といった癌予後不良の責任細胞であると考えられている。しかし、癌切除検体からの癌幹細胞の回収・解析は容易でないために、癌幹細胞がもつ生物学的特性の獲得・維持に係る分子機構は未だ十分に明らかでなく、癌幹細胞を標的とする治療法も未確立である。 本研究は、大腸癌細胞株SW480に対して三つの転写因子(OCT3/4, SOX2, KLF4)を同時に導入することで人為的に作製できる”人工大腸癌幹細胞”を用い、この細胞における癌幹細胞特性の獲得・維持に関わる分子機構を明らかにすることによって大腸癌幹細胞を治療標的とし得る分子を同定する、という新しい系の確立を目的として行った。 まず、研究代表者らが報告した方法を用いて人工大腸癌幹細胞を作製した。また、人工大腸癌幹細胞を選択的に回収する方法について技術的に簡素化を行った。さらに、 人工大腸癌幹細胞が獲得した癌幹細胞特性について、上述の個々の導入因子がどのように寄与するのかを明らかにするために、単因子、二因子、三因子それぞれの組み合わせを導入した細胞株もすべて樹立し、それぞれその特性について調べた。樹立した全ての細胞株からRNAを回収し、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現を評価した。これにより、人工大腸癌幹細胞において発現が有意に変動した遺伝子を明らかすることができ、 ontology解析、Gene Set Enrichment 解析、クラスタリング解析も行った。癌幹細胞特性の維持に必須の因子を明らかにするため、上記解析により抽出した遺伝子のうち上位の遺伝子・転写因子に注目して、 細胞生物学的手法でこれらの機能解析を現在進めている。 今後、 大腸癌幹細胞の分子機構を基盤とした新規バイオマーカーの発見および癌幹細胞を治療標的とし得る分子の同定へと展開していくことが期待される。
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