本研究は、抗酸化作用を有する黄耆を増量し抗酸化作用を強化した十全大補湯を用いて、ラット放射線性腸炎モデルに対する腸炎発症予防効果、腸炎の治癒促進効果を検討する。特に細胞内ミトコンドリア機能に着目し、抗酸化作用強化十全大補湯が放射線照射による腸管上皮ミトコンドリアの機能障害を緩和させてアポトーシスを予防できるか否かを検討するものである。 平成27年度は、ゲル化剤を用いて、黄耆を増量し抗酸化作用を強化した十全大補湯を含んだラット特殊飼料を作製し、特殊飼料を用いた経口投与法の開発を行った。 平成28年度は、上記の特殊飼料で飼育したラットを用いて、ラット細胞内ミトコンドリアの抗酸化作用を検討した。結果は、特殊飼料飼育群と対象群(通常飼料飼育群)で、腸管上皮ミトコンドリアと肝ミトコンドリアの抗酸化作用に差は認められなかった。ラットが特殊飼料の漢方薬成分を残して飼料を食べ分けることが原因として考えられた。漢方薬を直接経口投与した場合では、腸管上皮、肝細胞ともにミトコンドリアの抗酸化作用の増強が認められた。 平成29年度は、直接経口投与法でのラット放射線性腸炎に対する発症予防効果を検討した。抗酸化作用強化十全大補湯投与群は、対象群と比較して放射線照射直後の腸管粘膜アポトーシスは抑制傾向を示した。しかしながら、放射線照射7日目の腸管粘膜の組織障害程度には差異は認められなかった。 以上の結果から、抗酸化作用強化十全大補湯は、ラット腸管上皮ミトコンドリアと肝ミトコンドリアの抗酸化作用を増強する作用のある可能性が示された。また、放射線照射に対する腸管上皮のアポトーシス耐性誘導効果の可能性も示唆された。しかしながら、放射線の腸管組織障害に対する予防効果は証明できなかった。
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