研究課題
H17年からH22年までの術前放射線化学療法を施行したstage II/III進行直腸癌症例の臨床病理学的解析の結果,術前放射線化学療法の有効性を再確認できた.まず,これらの症例で治療前後の末梢血球数をあわせて解析した結果,術前放射線化学療法前の白血球数が多い症例ほど予後が良い結果となった.分画では顆粒球分画が多い症例は予後が良好であり,単球数が多い症例は無再発生存率 (RFS)が悪い傾向が認められた .しかしながら,末梢血球数と放射線化学療法の感受性とは明らかな相関はみとめなかった.術前放射線化学療法前の末梢血中単球数が多い群で予後が悪いという上記結果から,骨髄由来の単球系免疫担当細胞が進行直腸癌の治療抵抗性や悪性度に関わっている可能性が示唆された.本年度は,まず骨髄由来抑制細胞MDSCを反映するCD33陽性細胞や,腫瘍関連マクロファージ (TAM) であるM2マクロファージを表すCD163陽性細胞等の原発巣への動員を検討した.治療前内視鏡下生検組織および手術切除検体をCD33,CD163その他表面マーカーで免疫染色を施行した.治療前腫瘍組織中のCD33陽性細胞数は治療効果や予後と明らかな関連はみとめなかったが,CD163陽性細胞数が多い群では有意にypCR率が低かった .同様にCD163陽性細胞数が多い群で有意に悪性予後を示した.現在,骨髄からの単球系免疫担当細胞の動員に関連すると考えられる各種サイトカインやケモカインの原発巣での発現との相関を,術前放射線化学療法前後の変化も含めて解析を続けている.また,放射線療法感受性に関わる分子を同定するため,ヒト大腸癌細胞株において感受性株と抵抗性株の遺伝子発現プロファイルを調べ候補遺伝子CRBP1を抽出しており,ヒト組織でのCRBP1発現と術前放射線化学療法との関連を検討中である.
3: やや遅れている
研究計画では,新鮮臨床検体での解析に入っている予定だったが,まだパラフィンブロックでの詳細な解析を進めている。また放射線抵抗性に関わる候補遺伝子CRBP1を抽出できたため,この詳細な検討をin vitroで進めている。
上記後ろ向き解析結果を参考に,本学倫理委員会の承認のもと前向き研究として,患者血液検体および組織新鮮検体を採取し,免疫染色に加え,単球系細胞を中心とした免疫細胞プロファイルをFACSで解析する.術前放射線化学療法開始によって,免疫担当細胞の動員が誘導される症例があることが予想されるため,血液検体に関しては経時的に免疫細胞を解析する.血清・手術検体においては,IL-6,CXCL1/2/8等の腫瘍進展および炎症性サイトカインをELISAで測定する.放射線化学療法感受性群と耐性群の遺伝子発現プロファイルを比較するため手術検体からRNAを抽出する.以上から,末梢血中の免疫担当細胞と術前放射線化学療法感受性との関連を解析するとともに,放射線化学療法不応性に影響する分子CRBP1の臨床検体での検討の両面で進める.
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