研究課題/領域番号 |
15K10152
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
緑川 泰 日本大学, 医学部, 助教 (10292905)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発現解析 / エピゲノム / 大腸癌肝転移 / 統合解析 |
研究実績の概要 |
本年度は同一患者から採取された大腸粘膜(=レファレンス)、大腸癌原発巣と肝転移巣をそれぞれ32例についてRNAシークエンスおよびメチル化アレイ(450K)を行った。1レーンに上記3サンプルを泳動するとして(1回の実験あたり8レーン泳動)4回の実験で32例の解析が可能であり、depthは1検体あたり約7x107リードとした。 まずこのペアサンプルについて発現プロファイルを解析し、大腸癌肝転移での発現データを直接的にスクリーニングする。さらに同一検体よりDNAを採取し、450Kメチル化アレイを行いエピゲノム変化を調べた。これらの異なる解析法より得られたデータを統合解析し、発現量とプロモーター領域のメチル化の相関関係などを調べ、発現プロファイリングとメチル化プロファイリングによる統合的クラスター解析により肝転移が高頻度に認められる患者の層別化を試みた。 発現プロファイルでは3郡のクラスターに分類され、ほとんどが肝転移のポテンシャルを有する一群を同定し、全生存期間が他の2群と比較して有意に短いことを確認した。一方で、予後が比較的良好な群はメチル化解析により高メチル化群と低メチル化群に分かれ、高メチル化群は有意に肝転移により有意に予後が不良であることを確認した。 さらにネットワーク解析によりhnRNPファミリーの低発現および癌抑制遺伝子であるPTX3のメチル化による発現低下が肝転移に重要であることを推定した。今回同定された大腸癌肝転移の責任遺伝子については来年度以降にその機能解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度では解析に必要な基礎データである包括的発現データ、およびプロモーター領域のメチル化を全遺伝子にわたり算出することが可能であった。まず、基本的な発現プロファイルによるk-meansクラスタリングにより大腸癌肝転移を高頻度に有する群を同定し、その責任遺伝子としてhnRNPファミリーを候補として同定できた。また、本解析のメインテーマである統合解析により、遺伝子発現データとメチル化データをくみあわせることにより同一の発現プロファイルのグループ内でも異なる高メチル化群と低メチル化群により特徴づけられる患者に分類ができ、その特徴として肝転移による予後が不良であることが確認できた。さらにネットワーク解析により候補遺伝子としてPTX3を同定できた。 以上によりデータベースの構築と統合解析による大腸癌患者の肝転移に基づく層別化および予後の予測が可能であり、当初の予定通りの研究の推進状況であったと考えられる。 本データをベースとして来年度以降はさらに精度の高い患者の層別化、責任遺伝子群の同定、及び機能解析を行ってゆく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度で同定した大腸癌肝転移の責任候補遺伝子について、別の患者由来(再発を伴わない大腸癌とステージ4大腸癌)のサンプルを用いて絞り込みを行う。これらのサンプル間の比較により原発巣サンプルにより術後も含めた肝転移(再発)の予測マーカーを樹立する。 全エクソンは、長さとしては全ゲノムの約1%を占めるにすぎないが、タンパク質に翻訳される領域であることから機能的にもっとも重要なDNA配列である。早期肝細胞癌と中分化型肝細胞癌50例ずつを用いてエクソームシークエンシングによりエクソンの配列を決定する。エクソン領域は短いDNA配列ながらタンパク質に翻訳される領域であることから、機能的にもっとも重要なDNA配列である。また、エクソンのみをシークエンスすることは形質に関与する多様性を網羅的に解析する手法のなかでは比較的安価であり、情報解析の負荷も小さい。ヒトゲノムには約180,000のエクソンが存在し、長さとしてはヒトゲノムの約1%にあたる30Mb程度であるが、エクソン配列に含まれる変異が疾患原因の約85%を説明すると推定されている。 これまでに大腸癌原発巣120例(上記に相当する60例ずつ)の遺伝子発現データ、メチル化データについてiCluster (Mo Q, et al. PNAS 2013) により統合解析を行い、高率に肝転移を来すサンプルセットの同定を行い得た。今回の解析により突然変異データ及び融合遺伝子データを加えることにより、更に精度の高い肝転移メカニズムの解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初学会での発表を予定していたが、大腸がんを含む消化器がんの転移・進展についてをゲノムベースとして討論する学会が2015年度には開催されず、また旅費として計上を予定していた余剰の研究費を試薬等の消耗品として使用することも検討したが、本研究のテーマである肝転移を有する大腸がんサンプル(手術症例)が足りなかったため、2015年度の余剰の研究費を2016年度の手術症例のゲノム解析に充てる方針とした。 以上のように発表テーマと研究内容に相違があるため今年度は学会の出席を見送り旅費が一部未使用になってしまったが、消耗品費等については概ね予定通りの支出であった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度以降は今年度の実験結果については米国癌学会、米国癌治療学会等の国際学会に発表してゆく予定である。また今年度繰り越した研究費については追加サンプルによる次世代シークエンスによるエクソーム配列の決定による遺伝子変異解析・コピー数解析、450Kメチル化アレイによるプロモータ領域のメチル化を中心としたエピゲノム解析、RNAシークエンスによるトランスクリプトーム解析・遺伝子融合解析を追加の実験として行い、サンプルデータ数を増やして同一患者から得られた大腸がんサンプルについて複数の包括的な解析により統合解析を行うため、その消耗品の購入に充てる予定である。
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