研究課題
本研究では、肝硬変における微小循環障害ならびに肝脾相関の分子機序を解明し、門脈圧亢進症だけでなく肝硬変症をも改善する治療法を開発することを目的とした。類洞内皮細胞機能障害におけるEndothelial-mesenchymal transition (EndMT)の関与:内皮細胞由来の細胞が生涯にわたりLacZを発現するトランスジェニックマウスの肝硬変モデルにて、初代培養された線維芽細胞の多くがLacZを発現しており、肝硬変モデルの線維芽細胞には内皮細胞由来の細胞が含まれていることが確認できた。Tie2-GFPマウスではEndMTを来たしたと考えられる細胞の増加が微量だが確認できたことより、類洞内皮細胞障害の原因の一つとして、EndMTによる機能的欠損が考えられた。類洞内皮細胞へのshear stress増加によるNO分泌の改善:肝硬変症におけるシャント閉鎖により門脈血流が増加し、肝静脈NO濃度が上昇し、肝機能が改善した。血管新生の点からみた肝硬変症における脾腫大のメカニズム解明と制御:(1)摘出した肝硬変の脾において、ARFI imagingによる組織硬度測定を行ったところ、脱血後に脾硬度は低下し、組織還流実験にて脾静脈圧と脾硬度は正の相関を認め、脾うっ血が脾硬度や脾腫大と関連していた。(2)VEGF受容体阻害剤ソラフェニブを投与された肝硬変症11例において、投与後3~6カ月で、CTによる脾サイズは平均50.0cm2→42.6 cm2と平均14.4%縮小し(p<0.001)、脾静脈系は平均9.0mm→7.8mmと平均14.5%縮小した(p<0.001)。また、脾サイズの縮小とともに、収縮期血圧および拡張期血圧も有意に増加した。以上より、VEGFなどの血管新生シグナルが肝硬変症における脾腫の原因の一つであり、血管新生制御により脾腫は改善する可能性が示された。
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