研究課題/領域番号 |
15K10195
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
廣野 誠子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (60468288)
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研究分担者 |
清水 敦史 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (00637910)
山上 裕機 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (20191190)
川井 学 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (40398459)
岡田 健一 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (50407988)
宮澤 基樹 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (90549734)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膵癌 / ペプチドワクチン / MUC16 / mesothelin |
研究実績の概要 |
【研究目的】本研究は、われわれが網羅的遺伝子解析により独自に同定した、膵癌における浸潤規定遺伝子MUC16とmesothelinの、臨床病理学的意義ならびに生物学的意義を明らかにし、両遺伝子由来ペプチドワクチンの開発を目的とする。さらに、両遺伝子由来ペプチドワクチン開発後、その安全性の証明と推奨投与量の同定を目的とした、第Ⅰ相臨床試験に進む。 【当概年度の研究成果】同一膵癌個体の上皮内癌と浸潤癌のマイクロアレイデータを比較し、5pairすべてにおいて、浸潤癌でup-regulateした遺伝子87個のうち、浸潤癌特異的に最も高発現したMUC16とmesothelinの2遺伝子に着目し、免疫組織染色解析を行った。MUC16およびmesothelinは、正常膵組織ならびに癌前駆病変で発現を認めず、浸潤癌でのみ発現を認め、網羅的遺伝子発現解析の結果と矛盾しなかった。さらに、両遺伝子は同一膵癌細胞の細胞膜に発現を認め,互いに相互作用を生じていることが示唆されたため、切除標本・膵癌細胞株PK9を用いた共免疫沈降法を行った結果、膵癌において両者は結合し相互作用を生じていることが分かった。臨床病理学的因子との相関では、MUC16およびMesothelin高発現は、膵癌患者の独立した予後不良因子であることがわかった。両遺伝子の生物学的特徴を調べるため、膵癌細胞株PK9を用いてinvasion assay,migration assayを行うと、MUC16抑制株で有意にinvasion・migrationともに抑制された。またOC125・M114を用いてMUC16とmesothelinの結合をblockするとinvasionならびにmigrationともに抑制された。 以上よりMUC16とmesothelinの膵癌細胞における、臨床病理学的意義と生物学的意義を同定し、現在MUC16とmesothelinのペプチドワクチン作成にとりかかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
網羅的遺伝子解析により、膵癌の浸潤部規定遺伝子MUC16とmesothelinを同定した。免疫染色解析により、MUC16およびMesothelin高発現群は、低発現群より腫瘍径が大きく(p=0.004)、膵前方組織浸潤(p=0.01)、多臓器浸潤(p=0.04)、リンパ管侵襲(p=0.03)が多く、生存期間は不良であった。また、膵癌細胞株PK9と切除サンプルを用いてimmunoprecepitation assayを行った結果、膵癌において両遺伝子は結合し、相互作用を生じていることが分かった。膵癌細胞株PK9を用いてinvasion assayとmigration assayを行うと、MUC16抑制株で有意にinvasion・migrationともに抑制され、OC125,M114を用いてMUC16とmesothelinの結合をblockすると、同様にinvasion・migrationともに抑制された。このことから、MUC16とmesothelinは膵癌において相互に作用し、浸潤に関与していることが分かった。 続いて、MUC16、mesothelin由来ペプチドワクチンの作成を行うため、まずHLAに結合するペプチドの構造モチーフ検索データベースBIMASを利用し、MUC16とmesothelin由来のHLA-A*2402およびHLA-A*02拘束性ペプチドを、それぞれのbinding scoreの高い、すなわちHLAに親和性の高いペプチドを選択した(MUC16は22種類、mesothelinは19種類)。HLA-A*2402陽性の健常人末梢血を採取し、末梢単核球を分離、樹状細胞を誘導、成熟化させた。候補ペプチドを用いてペプチドパルスを3回行い、CTLの誘導を行う。誘導したCTLのIFN-γ産生をELISPOT assayにより測定する。現時点で候補ペプチドに対するCTLを誘導している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、われわれが独自に同定した、膵癌浸潤規定遺伝子MUC16とmesothelinを用いた、膵癌新規治療としての、両遺伝子由来ペプチドワクチンの開発を目的としている。われわれは、これまでMUC16とmesothelinの共発現が、膵癌細胞において、浸潤・転移に重要な役割を担い、さらに膵癌患者の生存期間を規定していることを証明した。現在、両遺伝子由来ペプチドワクチンを作成する目的で、特定のHLAに結合するペプチドの構造モチーフ検索データベースBIMASを利用し、MUC16とmesothelin由来のHLA-A*2402およびHLA-A*02拘束性ペプチドを、それぞれ22種類と19種類選択し、これらの候補ペプチドに対して、健常人由来の末梢単核球を用いたCTLの誘導を行っている。 今後、誘導したCTLの拡大培養を行い、IFN-γ assayにて評価し、CTLラインの樹立とCTLクローンの樹立を行う。その後、MUC16とmesothelin発現細胞株(PK9)と非発現細胞株(Panc1)の、HLA-A*2402発現陽性細胞株と陰性細胞株の計4群に対して、CTLクローンを用いてkilling assayを行う。MUC16およびmesothelinの発現(+)かつHLA-A*2402の発現(+)の膵癌細胞株のみに細胞障害を示すCTLクローンが誘導されれば、そのペプチド配列をもってエピトープペプチドと同定する。HLA-A*02に関しても同様の方法でエピトープペプチドを同定する。 次に、上記にて作成したMUC16とmesothelin由来ペプチドワクチンの安全性を証明し、推奨投与量を決定する目的で、進行・再発膵癌患者に対して3 patients cohort法にて第Ⅰ相臨床試験に進む。ペプチド投与量は、0.5mg, 1mg, 2mgとドーズエスカレーションする。なお、ペプチドワクチンの臨床投与量は、ペプチド特異的免疫応答がプラトーになった用量とする。
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