研究課題
膵癌は、最も予後不良の疾患の一つであり、早急かつ効果的な対策を要する。本研究では、膵癌の治療ターゲットとして新たな癌細胞増殖かつ走化性惹起作用をもつ血清因子を探索・同定すること、また、癌細胞株(in vitro)、動物実験(in vivo)および患者においてこのような因子が働くことを証明することを目的としている。in vitroリアルタイム細胞動態解析法(TAXIScan法)を応用し、膵癌細胞株で走化能・浸潤能を評価する系を構築した。また脂質メディエーターで走化性因子であるLPA(リゾフォスファチジン酸)に対する阻害剤(Ki16425)の効果が定量的に評価できることから膵癌細胞株BxPC3細胞の走化性を指標として、新規走化性惹起因子を探索することにした。予備実験にて、血清に熱処理を加えてタンパク質を失活させた後でも強い走化性を惹起する現象が観られたことから、目的の因子は主に脂質、糖脂質、低分子物質であることが予測されていた。脂質については、市販の脂質ライブラリーを用いて、走化性惹起活性をスクリーニングしたところ、脂肪酸2種およびプロスタグランジン類似脂質1種が走化性惹起活性をもつことを見出した。その他(糖脂質や低分子化合物)について、C18カラムを用いて精製を試みた。C18カラムで、走化性惹起活性をもつ分画が得られている。これらの物質は走化性惹起活性の報告は見られず、新規走化性惹起物質と考えられた。上記実験系確立部分はジャーナルに発表した(BMC Cancer 17(234),1-11, 2017)
3: やや遅れている
一年目の研究として、膵癌細胞の走化能・浸潤能を評価する実験系として、本研究に特化した評価系を構築した。本評価系を用いて、市販の脂質ライブラリーを用いて、活性のある脂質をスクリーニングしたところ、脂肪酸2種およびプロスタグランジン類似脂質1種に走化性惹起活性があることを見出した。また、二年目の研究として、脂質以外の物質(糖脂質、低分子物質など)について検討した、C18カラムを用いて精製を試みているが最終的な物質は同定できていない。さらに、見出した新規走化性惹起物質について、動物実験を行うべく、担癌マウスの実験系の構築に着手した。現在、既存薬Gemcitabineを使って実験系を確立している。同時に、ヒト癌細胞株とヌードマウスを用いる系においても検討している。
糖脂質、低分子物質について早急に物質を同定し、新規走化性惹起物質の存在の有無を検討する。また、見出した新規走化性惹起物質について、細胞増殖活性の有無を検討する。さらに、予定している動物実験を行う。マウス膵癌細胞株PAN-02 などを用いた膵癌モデルにて、担癌マウスにこれらの物質を投与し、癌組織の反応を検討して、癌増殖促進および癌転移促進作用を確認する。同様に、ヒト癌細胞株とヌードマウスを用いる系においても検討する。また、同因子の中和抗体及び発現抑制(マウスホモログを検討する)により、癌転移が抑制されるか否かを検討する。最終的には、見出した新規走化性惹起物質について実際の膵癌患者血清中に存在するのかどうかを検討する。患者および健常者より採血後、血清を分離し、質量分析器等を用いて検出する。
本科研費は、平成28年度は主に走化性惹起活性をもつ物質の同定のための実験について消耗品と補助員の人件費として使用させていただいた。設備はこれまでの走化性研究において使用していたものをそのまま継続して使用した。そのため、本科研費から設備費は使用していない。学会発表を行ったが、研究施設内の研究費で賄われたため、本科研費から旅費は使用していない。
前年度未使用額を含めて、交付される予定の科研費は、予定通り消耗品の購入、旅費および実験補助者の人件費として使用させていただきたい。また、引き続き既存の設備を使用するため、設備費の使用予定はない。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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