研究課題/領域番号 |
15K10208
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
荒井 裕国 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50202718)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 冠動脈外科学 / 冠動脈バイパス術 / 手術支援システム / 高周波心外膜エコー / 三次元画像構築 |
研究実績の概要 |
冠動脈バイパス手術における吻合の質や血行再建の完全性を術中評価し周術期・遠隔期の臨床成績を向上させるための試みとして、本研究では小型高周波心外膜エコープローブ先端に磁気式小型三次元位置トラッキングセンサを装着し、エコー画像とプローブ位置情報の三次元的な統合とリアルタイム提示が可能な術中評価支援システムの構築を進めている。平成29年度には開発システムのブタ摘出心モデルによるin vitro評価を前年度に引き続き行うと同時に、大型動物によるin vivo評価を行った。 1 ブタ摘出心モデルによるin vitro評価 ブタ摘出心の左前下行枝にブタ頸動脈をグラフトとして端側吻合し評価を行った。グラフトにはブタ血液を一定速度で流し、左前下行枝の血管走行に対して垂直な方向(短軸方向)と並行方向(長軸方向)とでそれぞれエコープローブの走査速度を一定に維持しながら画像を取得した。プローブ位置情報を加えずに短軸あるいは長軸方向に画像を積層したものと、プローブ位置情報を加えて構築した三次元画像とを比較したところ、プローブ位置情報を加えず単純に積層して得た三次元画像では比較的高い空間分解能を維持したまま血管構造を観察しやすい画像を構築できたが、プローブ位置情報を加えた三次元画像ではプローブ位置情報取得における時間分解能が充分ではない場合もあり、血管構造を精緻に描出する上でやや難渋した。 2 大型動物によるin vivo評価 大型動物(ブタ80kg)を胸骨正中切開で開胸し上行大動脈送血・上下大静脈脱血で人工心肺を開始後、左内胸動脈をグラフトとして左前下行枝に端側吻合したモデルにて評価した。リアルタイムでのエコー画像とプローブ位置情報の統合による三次元画像の構築が可能であり術中評価ツールとしての可能性が示されたが、プローブ情報の取得と統合に予想外の時間を要する場合がある等、システムの課題も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三年目にあたるH29年度には、ブタ摘出心モデルによるin vitro評価及び生体ブタモデルによるin vivo評価を行う事で、開発中であるシステムの構築・改善を進めてきた。特にin vivo評価に先行して繰り返し検討してきているin vitro評価では、エコープローブ位置センサの情報取得とエコー画像との情報統合処理に比較的時間を要する場合があることが判明し、その原因として磁気式センサの雑音に対するシステムの脆弱性が大きな課題であることを確認することができた。磁気式センサはセンサ周囲の金属類による磁場空間の歪みの影響を強く受けるが、同時に実験環境(手術室内)で同時に使用される電子機器から発せられる電磁ノイズの影響も強く受けるため、結果的に取得される位置情報・画像情報に充分な空間・時間分解能が得られず、精緻な管腔構造を示すほどの三次元画像の構築が困難な場合があった。 In vivo評価では三次元画像構築のリアルタイム性や、エコープローブの走査方法と構築した三次元画像の空間分解能に関する評価を中心に行うことで、リアルな術場環境におけるシステムの実用性を評価した。エコープローブの安定した走査は手技としての難易度も高く三次元画像の分解能が左右されることも含めいくつかの課題も示されたが、開発したシステムは高周波心外膜エコー画像のリアルタイム三次元画像化が可能であること、術中評価支援システムとしての有用性を確認できたため、おおむね順調に進展していると考えられる。 しかしながら、空間・時間分解能を高い精度で維持した三次元画像を高速で構築し、実用的でより使いやすく冗長性の高いシステム構築のためにも、システムに更なる改良を加え得られた成果・知見を学会等で発表することが残された課題であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
開発中システムにおける精度と安定性に関する課題を改良し、より空間・時間分解能の高い三次元画像を高速でリアルタイム構築できるよう進めていく予定である。具体的には、複数の磁気式三次元センサの同時利用による磁場空間の歪み補正や、エコー画像アーチファクトに対する画像処理の単純化及び高速化を検討していく。 摘出心モデルによるin vitro評価はシステムの改良と並行して引き続き行い、必要に応じて大型動物によるin vivo評価を行う。動物実験では所属機関の動物実験委員会の承認のもと動物実験に関する3Rs(replacement, reduction, refinement)の原則に従い、動物実験に関する教育訓練を受けた動物実験実施資格を有する人員で適切に執り行う。動物によるin vivo評価はリアルな術場環境における総合的な評価となるためシステムの弱点を洗い出しやすく、更なる改良改善のための貴重なフィードバックとして機能させる予定である。 システムの完成度をより高めるためのこれらの取り組みは全て学会発表や論文の形で報告をし、研究成果を学会や社会に対して還元していく。さらに、臨床使用に向けた準備として高周波心外膜エコーメーカー及び当該装置の日本販売代理店の協力を得て本システム機能を装置に搭載することも検討し、冠動脈バイパス術における吻合の質や血行再建の完全性を向上させるための新しい術中評価として、臨床使用による妥当性・有効性評価を進めるための準備を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】 研究はおおよそ予定通り実施でき、高周波心外膜エコー画像の三次元化情報提示システムの構築とin vitro評価及びin vivo評価を行ってきた。試作したシステムの磁気式センサにおける精度上の問題から、充分な空間分解能・時間分解能でのエコープローブ三次元位置情報が得られない場合も発見されたため、更なる精度向上のためのシステムの改良とその改良点を含めた成果発表(心臓血管外科学関連学会及び医工学系関連学会)を行う必要があると判断し、次年度への補助事業期間延長申請を行った。 【使用計画】 エコープローブの三次元位置情報を取得する磁気式センサに対し、精度上の外乱となる因子の特定とその影響を最小限に抑えるための磁場発生装置の設置個所の検討を含め、実用上重要な課題の検討を充分に行う。改良を進めるシステムの評価は、in vitro実験にて入念な試行を繰り返す事はもちろんのこと、ヒトと同様なサイズの冠動脈血管が得られる大型動物を用いたin vivo実験も計画しており、そのためのファントム作成費用や動物実験費用として実験動物代金、薬品・輸液等を含めた各種消耗品の費用が必要となる。
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