研究実績の概要 |
本研究の最終的な目的は、生体組織の脱細胞化技術を用いて死体心から新たな移植用心臓を作成することである。最終的には脳死ドナーに頼らない心臓移植治療の実現化を目指して研究を遂行した。 これまでに我々は、Rat心臓を用いた脱細胞化によるマトリックスの保持・臓器の作製法に習い、温度、流速、圧などの調整を行える独自の効率的な脱細胞化システムを開発し、これを用いてチャンバー内での心臓の脱細胞化を定型化した。又、得られた脱細胞化心臓を他のブタへ異所性移植し、吻合可能な強度を持つ血管構造が保たれていることを証明するとともに、血管内造影検査にて冠動脈および心腔内の血流を観察した。次年度は、生体組織内への移植後に起こる脱細胞化組織内への細胞遊走に関する詳細な分析を行った。Ratの肝臓、腎臓で既に実現されている脱細胞化マトリックスへの生体細胞の遊走現象(Y. L. Yu, Biomaterials, 2014) に関して、心臓で同様の実験を行い血管内皮細胞などの遊走現象を認めた。 今年度は全脱細胞化心臓の研究と同時に、部分脱細胞化心臓の組織補填材料としての使用の有用性に関しても研究を遂行した。脱細胞化心臓の生体組織に対する生着性、細胞遊走の鋳型としての可能性を探るため、脱細胞化心臓の左室を切離し、他ブタの左室側壁への部分移植を行った。3ヶ月後、移植された脱細胞骨格を摘出し病理学的に観察し、HE染色、免疫染色にて心筋細胞の遊走を示唆する所見を認めた。また、脱細胞化技術を用いた僧帽弁複合体(乳頭筋、腱索、弁尖、弁輪)人工弁の開発についても研究を行っている。脱細胞化僧帽弁複合体の死体ブタ心臓への移植を行い、正常の弁の機能を果たす可能性を確認した。今後はヒトの僧帽弁手術と同じ方法で、人工心肺、心停止下で脱細胞化ブタ僧帽弁複合体の移植を行い、移植後の弁の強度や性能などについて評価を行う予定である。
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