研究実績の概要 |
iPS細胞を用い、肝細胞増殖因子(HGF)を発現させることで効率的にリンパ管内皮細胞へ分化を促進させることを目的に実験を行った。マウスiPS細胞に対してリポフェクション法やエレクトロポレーション法など種々の方法でHGFプラスミドを遺伝子導入し、HGF恒常発現細胞株の樹立を試みたが、遺伝子導入効率が極めて低く細胞培養系の樹立はできなかった。この結果から、まずは既報の方法(G Narazaki, J K. Yamashita, et al. Circulation. 2010)で通常のiPS細胞をOP-9細胞を利用してリンパ管内皮細胞へ分化させる実験を行ったが、既報のような細胞培養系を得ることはできなかった。この培養した細胞は特定の分化ではなく、ヘテロな集団が混在していた。iPS細胞株を変更しても同様の結果であったため、OP-9細胞の機能が喪失している可能性が示唆された。またiPS細胞へHGFを一過性に発現させてiPS細胞がリンパ管内皮細胞の特徴を獲得するかを確認したが、Sox18、FoxC2などリンパ管内内皮特異的マーカーの一過性の発現上昇は認めるものの(real time PCR)、継続してリンパ管内皮細胞へ分化させる事はできなかった。以上の結果から、これまでに報告のあるiPS細胞でのリンパ管内皮細胞への分化は困難であると考えられ、抜本的な方法論の見直しが必要との結論に至った。この結果を踏まえ、未分化細胞からの分化ではなく、分化した静脈内皮細胞を直接リンパ管内皮細胞へリプログラミングする可能性を検討することとした。
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