研究課題/領域番号 |
15K10230
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
紙谷 寛之 旭川医科大学, 医学部, 教授 (30436836)
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研究分担者 |
木村 文昭 旭川医科大学, 医学部, 助教 (20516413)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胸部大動脈外科 / 循環停止法 / 低体温 / 出血傾向 / 血液凝固能 |
研究実績の概要 |
本研究においては、胸部大動脈外科における出血傾向の制御を目的とし、(1)胸部大動脈外科における出血傾向は循環停止時の低体温に起因するものではなく、人工心肺時間の延長によっておこる、(2)急速冷却・急速加温を可能とすることにより人工心肺時間の短縮は可能で、結果として出血傾向の制御につながる、の2つの仮説を証明すべく、(A)循環停止時の体温の出血傾向に与える影響および出血傾向に関与する機序を解明する、(B)各々の温度設定での脳・脊髄などの臓器の虚血性変化を、臓器保護の観点からの循環停止時の体温の安全限界を解明する、(C)臓器障害を来さない急速冷却、急速復温法について研究し、いずれの温度設定においても人工心肺時間、ひいては手術時間の短縮を可能とする人工心肺プロトコールを解明する、の3点を研究目標としている。まず、臨床症例における術中の血液凝固能の詳細な解析を目的とし、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間など既存の評価項目に加え、本研究資金を活用し、保険収載されていない最新の血液凝固能測定装置であるThromboelastometry(ROTEM)や血小板機能を評価するMultiplateを導入し、現在までに115例において評価を行った。また、術中凝固能と周術期の輸血量および出血合併症を初めとする種々の臨床的アウトカムとの関係について解析を行った。その結果の一部については、2016年度第69回日本胸部外科学会学術集会において、「中程度低体温循環停止法を用いた弓部大動脈手術における凝固異常の程度は人工心肺時間や循環停止時の温度と相関しない」という演題として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最新の測定機器を用いた検討結果では、中程度低体温循環停止法を用いた弓部大動脈手術における凝固異常の程度は循環停止時の温度と相関しないことが明らかになりつつある。これは今までの常識を打ち破る新知見であり、本研究の大きな成果であると考えており、その意味では進捗状況についてはおおむね順調であると考えている。しかし、どのような症例において高度の術中凝固異常、あるいは大量出血が生じるかについては今までの解析ではまだ判明しておらず、今後の課題であると考えている。上記のごとく、現在までに臨床症例115例において解析を行ったが、症例数は現在増加傾向にあり、今後研究対象症例が蓄積されることで、より詳細な検討が可能になるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、低体温循環停止法の際の高速冷却・高速復温法の実現に向け、ブタを用いた動物実験を行っていく方針としている。具体的には、(1)大動脈外科における冷却・復温は人工心肺の回路に組み込まれている熱交換器を用いて行われるが、従来冷却・加温の際には送血温と脱血音の温度差は10度以内とするのが標準であった。本研究では送血と脱血の温度差を10度、15度及び20度に分けた3群を設定し、血液成分の破壊および各臓器の障害の程度を評価する。また、送脱血の温度差が出血傾向に与える影響も実験(A)と同様のプロトコールを用いて評価する。(2)送血路を複数とすることによって急速冷却・復温が可能となるかどうかにつき検討する。我々はすでに急性大動脈解離における上行大動脈送血法の安全性の評価を行い、国際的な評価を得ている。本研究では、我々の先行研究の知見に基づき、送血経路を上行大動脈のみの群と上行大動脈及び大腿動脈の群の2郡に分け、複数送血路が経却・復温に与える影響につき研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
科学研究費助成金の大部分をROTEMとMultiplateの試薬費として活用してきたが、試薬の値下がり等の影響があり、10万円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度より開始する動物実験の費用として活用する予定である。
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