研究実績の概要 |
胸部大動脈瘤は破裂すれば高率に死亡に至る予後不良な疾患であり、外科的手術(開胸手術もしくはステントグラフト治療)が行わ れる。しかし、胸部大動脈瘤術後には重篤な合併症が認められることが少なからずあり、中でも脊髄の虚血性障害による対麻痺は患者 の生活の質(QOL)を著しく損ない、生命予後を不良とする重篤な合併症として知られている。近年の研究では、術後脊髄虚血(前脊髄動脈の疎血・再灌流障害)の回避には脊髄灌流側副血行路の発達が重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。そこで本研究では、血管再生因子誘導剤であるONO-1301による脊髄側副血行促進法を開発し、術後の脊髄虚血を予防する治療法を開発することを目的としている。 ONO-1301の投与経路としては経静脈投与が最も汎用性が高いが、虚血部位局所の薬剤濃度を上げるのに有効な手段として、nanopart icle(NP)を利用した静脈投与時の薬物動態および有効性の検証を行なっている。脊髄虚血モデルでの検証に先立ち、当研究ではすでに虚血再灌流モデル として確立されている心筋虚血再灌流モデルを用いて検証を行った。 ガドリニウムラベルを用いたMRIによる検証では投与後24時間で 虚血部位にNPが集積しすることが確認され、投与後24時間では心筋内濃度が血清濃度に比べ有意に上昇していることが確認された。またONO-1301NP投与群ではNP単独投与群やONO-1301群と比較し梗塞領域が有意に減少することが示された。さらに組織学的にはHGF, PDGF, SCDF-1の 発現がONO-1301群で有意に増加しており、さらにはCD31陽性毛細管が有意に増加していることが確認された。またONO-1301による血流増強効果を直接的に評価するため、下肢虚血モデルにONO-1301徐放性マイクロスフェアー製剤を投与しLaser Doppler Perfusion Imagingによる組織血流量評価を行ったところ、投与群にて優位な血流増加を認めた。
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