研究課題/領域番号 |
15K10249
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
大野 聡子 久留米大学, 医学部, 助教 (80569418)
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研究分担者 |
青木 浩樹 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60322244)
田中 啓之 久留米大学, 医学部, 教授 (70197466)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / サイトカイン / マクロファージ / 炎症 / 増殖応答 / 平滑筋 |
研究実績の概要 |
大動脈解離は大動脈が破綻して死に至る重篤な疾患である。予防法は確立されておらず、保存的もしくは外科的治療を行っても慢性的に進行して合併症を来す例も少なくない。 これまでの研究で、血行動態負荷によって生じた大動脈の小さな血管損傷が、マクロファージ特異的にIL-6系シグナルを亢進したマクロファージ特異的Socs3ノックアウト(mSocs3-KO)マウスでは病態が進展し、解離を発症することを発見した。マクロファージIL-6系シグナルの解離発症メカニズムを解明するため正常大動脈から血管損傷までを経時的に解析した。 経時的トランスクリプトーム解析によると、野生型大動脈では血管損傷により炎症関連遺伝子や増殖応答関連遺伝子の亢進が見られた。mSocs3-KOではより早い血行動態負荷のみの段階でより強い変化が見られ、収縮線維や細胞骨格など平滑筋機能を示唆する遺伝子発現が抑制されていた。血管損傷に浸潤したマクロファージの形質を調べると、mSocs3-KOでは炎症性マクロファージへ分化する傾向を示していることがわかった。 またヒト解離組織を用いた蛍光染色では血腫の進展部位においてマクロファージSTAT3の活性化が亢進しており、ヒト解離病態においても病態進行とマクロファージSTAT3との関連が示唆された。 上記より、マクロファージIL-6系シグナルは血行動態負荷により炎症応答、増殖応答、平滑筋機能に影響を与え解離発症に寄与していると考えられた。当該年度は炎症応答、平滑筋分化型に着目してタンパクレベルの経時的解析を行い、野生型とmSocs3-KOを比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、病態の進行とともに炎症応答、平滑筋機能の変化がもたらされる事がわかった。本年度は「コントロール」、「シャム手術」、「血行動態負荷」、「血管損傷」の各4病期に採取した大動脈を用いて、タンパクレベルで炎症応答、増殖応答、平滑筋機能、細胞外マトリックス代謝について解析した。ウェスタンブロットによる解析の結果、野生型ではコントロールから血管損傷に病態が進行するにつれ炎症応答(JNK)、増殖応答(Cyclin D3)、平滑筋脱分化(SMemb)が上昇し「血管損傷」の時点で最大値となった。mSocs3-KOでは血管損傷の至る前の「血行動態負荷」の時点で最大値となり、これらの分子が早期に高値となる事がその後の解離への進展へ関連する事が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
野生型マウスにコラーゲン重合阻害薬BAPNとアンジオテンシンIIを投与すると、約2週間で解離を発症する(BAPNモデル)。BAPNモデルで解離発症前のマクロファージ分化型を確認する。BAPNモデルでIL-6受容体中和抗体、JAK阻害薬、STAT3阻害薬を投与して炎症性マクロファージへの分化を抑制し、解離発症が抑制されるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はすでに採取していたサンプルを用いて、各種検討項目のアッセイと解析を主に行った。マウスの飼育やサンプル採取のための費用がかからず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
マウスへの薬物投与実験、論文校閲などに使用する。
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