研究実績の概要 |
大動脈瘤は、原因不明の慢性炎症のため大動脈壁の局所的な脆弱化から拡張、瘤化をきたし、破裂する致死的疾患である。一方で、抗炎症作用を有する第3番目の生理活性ガスとして、硫化水素(H2S)が近年注目されている。本研究では、硫化水素(H2S)の抗炎症作用による腹部大動脈瘤の形成抑制効果を立証し、腹部大動脈瘤の外因性H2Sdonorによる画期的な治療法開発を目的とする。 ヒト大動脈組織培養における外因性H2Sの炎症性シグナルに及ぼす影響を検証した。前年までに、動脈瘤形成の際、最も影響していると考えられている炎症性サイトカインIL-6の値をELISA法を用いて測定し、外因性H2S donorであるDiallyl trisulfide(DATS;0.1M,0.01M)投与前後におけるIL-6の変化を検討した。結果はDATSを投与してもIL-6の値に変化を認めなかった。次に、DATS刺激前にTNF-α(10ng/ml)を加えることで、培養液中のIL-6が更に増加した状況下で、TNF-αを介したIL-6がDATS刺激によって抑制されるかを検討した。この結果、TNF-αの刺激により培養液中のIL-6は増加したが、DATS投与によりIL-6は全く抑制されなかった。さらに、動脈瘤形成に関与する細胞外基質(MMP-9, MMP-2)の分解亢進をDATS投与により抑制できるかの検討をZymogramを用いて検討した。結果はDATS投与群において、MMP-9活性は上昇を認め、当初の予想に反して, 外因性H2S donor ,Diallyl trisulfide(DATS)には、MMP-9の産生促進効果がある可能性が示唆された。
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