最終年度は、生体肺移植後の原発性移植片不全(肺移植直後、24時間後、48時間後、72時間後)における移植肺由来血中遊離DNAの役割について検討した。移植肺由来血中遊離DNAの上昇と、肺移植直後と72時間後におけるPaO2/FiO2比の低下が相関していたが、いずれの時点でも原発性移植片不全のグレードには相関していなかった。また、予測努力性肺活量やCTボリューメトリーを元に算出した移植肺の大きさと移植肺由来血中遊離DNAのレベルは相関していなかった。 本研究では、生体肺移植におけるドナーとレシピエントの一塩基多型(SNP)の違いから、real time PCRを用いてドナー由来のSNP(移植肺由来血中遊離DNA)を同定し、移植後14日間、レシピエント血中遊離DNA中の移植肺由来遊離DNAが占める割合をdigital droplet PCRを用いて測定した。生体肺移植13例の合計182サンプルを対象に、移植肺由来血中遊離DNAの肺移植後の経時的推移を観察し、また急性拒絶反応群(拒絶群)4例、肺炎群4例、安定群5例の3群で比較・検討した。移植由来血中遊離DNAは移植直後に最も高値で、その後低下し術後5日目にプラトーに達した。移植直後と移植後72時間の移植由来血中遊離DNA の上昇はPaO2/FiO2比の低下とそれぞれ相関関係を認めた。移植後5~14日目の間、拒絶群では肺炎群や安定群に比べ、移植肺由来血中遊離DNAがステロイドパルス療法前から有意に上昇し、抗体関連型拒絶ではその上昇が遷延していた。 生体肺移植後の急性拒絶反応の診断では、通常、侵襲的な気管支鏡下肺生検は行われていないが、低侵襲な移植肺由来血中遊離DNAの測定は、原発性移植片不全の重症度の判定に有用で、急性拒絶反応の新しいバイオマーカーとなる可能性が示唆された。今後、生体肺移植後の慢性拒絶反応でも検討していく予定である。
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