研究課題/領域番号 |
15K10265
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
小副川 敦 大分大学, 医学部, 助教 (90432939)
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研究分担者 |
宮脇 美千代 大分大学, 医学部, 講師 (30404388)
杉尾 賢二 大分大学, 医学部, 教授 (70235927)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 浸潤性粘液産生性腺癌 / targeted resequencing / primary culture / cell cycle / energy metabolism |
研究実績の概要 |
大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座で手術され、パラフィン包埋切片が利用可能な粘液産生性細気管支肺胞上皮癌(新WHO分類ではinvasive mucinous adenocarcinoma, IMA)の症例13例について、genomic DNAを抽出、Ion AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2によるターゲッテッドシーケンシングを行った。13例中、解析可能であったのが10例であった。遺伝子変異としては、K-ras変異4例、TP53変異3例、他、LKB1変異、PIK3CA変異、EGFR変異、ATM変異をそれぞれ1例に認めた。上記いずれの変異も認めなかった症例は4例であった。そのほか、SMARCB1変異を4例に認めたが、まれな変異の上、いずれも同じT72K変異であったため、シーケンスエラーとの鑑別が必要である。一方で、コピー数の変化としては、RB1のlocusである13q14.2とLKB1のlocusである19p13.3-11のコピー数低下が認められた。 一方、IMAの切除検体からの組織培養、細胞株の樹立について、まず混在する線維芽細胞が少なく、物理的な細断が不要な体腔液(胸水)からの樹立を試みた。院内倫理委員会での審査を通過し、当該患者からの文書による説明同意を得たのちに、EGFR遺伝子変異陽性肺腺癌からの癌性胸膜炎2症例より胸水中癌細胞の初代培養を開始した。数回の継代後、通常の培養条件では著しい細胞増殖の低下、細胞死の増加を認めたが、ROCK阻害剤であるY27632 10μMの添加により、細胞増殖能の向上、細胞死の抑制が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.IMAの切除症例が予想よりも少なかったこと。 2.予備実験として開始した胸水中腫瘍細胞の初代培養に関して、技術的問題の解決と細胞株の樹立に予想よりも時間を要しており、その結果、切除標本から組織培養を行う系の確立に時間を要していること。
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今後の研究の推進方策 |
IMAにおける遺伝子変化として、K-ras変異とCDKN2A/2B遺伝子変異の合併が報告されている(Skoulidis et al, Cancer Discov 2015)。また、遺伝子変異陰性の症例において、NRG1など融合遺伝子の存在が報告されている(Cancer Discov 2014, Clin Cancer Res 2014)。IMAの10例に対し、Cancer Hotspot Panel v2によるディープシーケンシングを行った結果判明した遺伝子変化のうち、LKB1とRB1のコピー数の低下が最も頻度の高い(いずれも80%)遺伝子変化であった。LKB1は癌のエネルギー代謝に、RB1は細胞周期に関わることを考慮すると、前述のSkoulidisらの報告とも関連している。これら癌抑制遺伝子のコピー数変化について、MLPA法などを用いて検証を進める予定である。 IMAから樹立された細胞株は今のところ報告がない。初代培養の方法として、ROCK阻害剤と照射線維芽細胞を用いることで、樹立割合が格段に上がったという報告があり(Liu et al, Am J Pathol 2012)、我々もY27632とコラーゲンI培地を用いた方法で、胸水からの初代培養に成功した(2/2)。この方法を外科切除検体に応用し、IMA切除症例からの細胞株の樹立、in vitroでの治療実験への応用へ発展させる。具体的には、樹立した細胞株の遺伝学的特徴をNCC Oncopanelによるディープシーケンシングで解明し、メタボローム解析によってエネルギー代謝の異常を検出する。さらにcell cycle阻害剤やチロシンキナーゼ阻害剤などを単剤あるいは併用で用いた治療実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、IMA切除組織をNSGマウスの皮下に移植し、IMA腫瘍細胞を腫瘍組織ごと継代する予定で、予算を計上していたが、その予備実験に時間がかかり、また、ROCK阻害剤の活用という点で、研究計画の修正が必要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
まず、切除標本から切り出した腫瘍組織を、ROCK阻害剤存在下、コラーゲンI培地で初代培養を行い、細胞株樹立の可否を検討する。報告では、最初はNSGマウスに皮下腫瘍組織培養系として数回継代した後にin vitroでの培養を開始したほうが成功率が高いというものもあり、NSGマウスに関しては、今年度に用いる予定である。
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